<センバツ高校野球:横浜7-1聖光学院>◇29日◇2回戦

 神奈川の壁は厚く、高かった。聖光学院(福島)が横浜に完敗。春夏通じて福島県勢初の神奈川県勢撃破はならなかった。昨秋の防御率大会NO・1(0・15)の右腕エース岡野祐一郎(3年)が15安打7失点(自責5)と打ち込まれ、3失策と守備も乱れた。打線は冬場の練習の成果が出て11安打を放ったが、わずか1点に終わった。この悔しさを夏への糧にする。

 1度失った流れを、最後まで引き寄せることができなかった。0-3の5回1死一、二塁。3番長井涼捕手(3年)の強烈な打球が、飛び付いた三塁手のグラブに収まる。あと数センチ。反撃ののろしとなるはずだった一打は一転、併殺打になった。斎藤智也監督(48)は「自分たちで1回、墓穴を掘った。流れを取り戻すのには何倍もの労力がかかってしまう。何をしてもダメな時がある」と力なく話した。福島県勢は、夏の選手権で対神奈川県勢5戦全敗。聖光学院にとって横浜は、08年夏の準々決勝で1-15と敗れた相手でもあったが、またしても呪縛を解き放つことはできなかった。

 出だしは悪くなかった。1回に先制を許すも、守備が苦手な川合祥太朗左翼手(3年)が、ライン際に流れる打球をダイビングキャッチ。だが、2回に2失策が絡んで追加点を許し、3回にもミスから3点目を献上してしまった。斎藤湧貴中堅手(3年)は「守りからリズムを作るチームなのに、守れなくて悔しい。やるべきことができないチームに勝つ資格がないのが分かった」とうなだれた。昨年11月からグラウンドが除染作業に入り、内野でのノックはできなかったが「それは関係ない」と斎藤監督。一切の言い訳はしなかった。

 先発の岡野は、経験のない圧力を受けながら粘投した。ナチュラルにシュートする直球とスライダーは、横浜打線にいとも簡単にはじき返された。だが、気持ちは切れない。5回1死三塁のピンチでは相手のスクイズが三塁線への小フライになったが、果敢に飛び込んで好捕。併殺に仕留めた。「諦めずに最後までいったつもり」と、8回途中まで139球に全力を注いだ。

 震災時、福島で練習中だった岡野は、地元石巻の仲間と必死に連絡を取った。その中には、中学時代のシニアで一緒だった石巻工の選手もいた。「こっちは大丈夫だけど、街がヤバイ」。石巻工のエース三浦拓実(3年)から送られたメールの画像には、幼い頃に遊んだ地区の変わり果てた姿が映し出されていた。メールは保存し、ふと見ることがある。「忘れちゃいけない」。甲子園で諦めない姿を見せた石巻工が敗れた後には、三浦から「頑張れよ」と激励された。諦めない-。岡野は「自分たちができることは精いっぱいやることだけ」と、大差をつけられても気迫を前面に出して腕を振り続けた。

 斎藤監督は「体作り、新戦力(1年生)を含めて、1回チームを壊すしかない」と出直しを誓った。3度目の挑戦でつかんだセンバツ初勝利を糧とし、夏に向けて力を蓄える。【今井恵太】