<高校野球和歌山大会>◇29日◇決勝

 智弁和歌山の岡田俊哉投手(3年)が3試合連続完封、南部を3-0で破り、5年連続17度目の夏代表を決めた。プロ注目の左腕は南部を散発3安打、12奪三振の力投。甲子園では花巻東(岩手)菊池雄星(3年)と大会NO・1左腕の座を争う。

 最後は直球と決めていた。9回2死、カウント2-0。あと1球で甲子園。駆け寄ってきた平野晃土捕手(3年)に「どうする?」と聞かれた岡田は「インコース真っすぐで行く」と答えた。その目には、もう涙が浮かんでいた。

 かすむ視線の先のミットめがけ、全力の112球目。狙ったコースで見逃し三振。両手を突き上げ、歓喜の雄たけび。「センバツは僕が打たれて出られなかった。この夏にかける思いは強かったから…」。野球人生で初めてマウンドで流した涙の理由だった。

 連戦の疲れも見せず、快調に飛ばした。この日最速142キロの直球とスライダーで南部を手玉にとった。2度の3者連続を含む12奪三振。6回には打球が左足首を直撃した。ヒヤリとさせたが「逆に力が抜けて良かった」と勢いは加速。連続無失点を32回1/3に伸ばして頂点に立ち、高嶋仁監督(63)が「史上最悪」と嘆く打力をカバーした。

 昨年9月、高嶋監督が部員への暴力行為で3カ月間の謹慎処分を受けた。岡田は言う。「あの時は高校球児じゃなかった。練習を怠けていた。先生がいないチームはただの野球同好会。戻ってきた先生のノックは楽しかった」。甲子園歴代2位56勝監督の存在の大きさを再認識した。「先生はあと3勝で1位。それに貢献したい」と誓った。

 監督不在の秋の近畿大会では金光大阪に1回戦敗退。センバツの道が断たれた。完投した岡田は4回までに7失点と散々。「あれで自分のピッチングを見失った」という。今春センバツ決勝戦を甲子園で観戦し、復調の兆しが見えた。「目標が固まった。夏はあそこで投げたいと思った」。そんな決意が実を結んだ。

 1年生から3年連続で聖地のマウンドに立つ。最速152キロの菊池と、大会NO・1左腕の座をかけて争う。「甲子園は強豪が集まる。1戦1戦気が抜けない。楽しんで野球がしたい」。そう話す岡田は白い歯をのぞかせ、いつもの笑顔に戻っていた。【大池和幸】

 ◆智弁和歌山

 1978年(昭53)創立の私立校。編入コース、スポーツコースがあり、生徒数は841人(女子307人)。野球部は79年創部で、部員数は32人。甲子園は春8度、夏は17度目の出場。春夏合わせ3度全国優勝している。主なOBはヤクルト武内晋一、楽天中谷仁。所在地は和歌山市冬野2066の1。藤田清司校長。