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ニッカンの名物連載「伝説」が本に! 吉田義男編


吉田義男の打撃フォーム
吉田義男の打撃フォーム

 鯖街道をご存じだろうか。日本海で採れた新鮮な魚介類を京へ運ぶ歴史ある道だ。今の福井県から琵琶湖の西岸を南下する一本道。一説によると採れたての鯖を塩に漬け、走って都に着く頃には丁度良い味加減となり、雅な人々が舌鼓を打ったという。

 福井と京都。隣接する府県の人々には特別な感情があるのだろう。福井県出身の寺尾博和日刊スポーツ編集委員は京都府出身の吉田義男客員評論家の担当となって10年以上の年月が流れた。地元の高校から大阪体育大学と無心で硬球を追い続けた。学生時代は熱狂的な巨人ファン、長嶋シンパだったが、野球記者として南海、近鉄を経て91年から阪神を担当。20年以上タイガースを追い続け、今ではABC朝日放送のテレビ番組おはようコール(関西ローカル)で週1回、タイガースを論評する立場になっている。

 寺尾が入社したのは86年。前年にタイガースは2リーグ分立後唯一の日本一に輝き、経済効果400億円と言われているフィーバーを巻き起こした。「巨人阪神がプロ野球の華といっても僕が野球に興味を持った頃は巨人V9のまっただ中。その後も阪神は優勝から遠ざかっていた」。その低迷期からチームを育て、就任初年度に栄冠を勝ち取った吉田氏の存在そのものが、寺尾にとって黄金伝説と言えるのだ。

 日刊スポーツ西日本の名物コラム書籍化の話が具体化したのは4月に入ってからだった。朝日新聞出版のコンテニングは掲載91話の中から旧在阪4球団にまつわる話に絞り、巻頭には85年阪神日本一を持ってくる、だった。新聞掲載コラムの再構成、再掲載に何かインパクトのある付加価値はないか。出版社と日刊側が知恵を出し合った結論が吉田氏の単独インタビューだった。03年の星野フィーバー、05年の岡田阪神Vとリーグ優勝はあったが、26年間、日本一からは遠ざかっている。今だから話せるリーグ優勝の秘話を引き出すには聞き手もキャリアが必要だ。寺尾に白羽の矢が立ち、4月末と5月初旬にインタビューが敢行された。

阪神優勝甲子園凱旋
阪神優勝甲子園凱旋

 2人はキャンプ先、甲子園、遠征先と年に何十日も顔をつきあわせている中だ。

 寺尾 吉田さん。じゃあお話を聞かせてくださいよ。
 吉田 ほな、あそこにしましょうか

 あうんの呼吸で明日にでも話を聞ける仲なのだが、律儀な寺尾は場所、時間などあらゆる格式にこだわる。インタビュー会場に選んだのは甲子園球場に隣接するシティーホテルだった。

 寺尾によって掘り起こされた吉田氏の談話はすべてが宝石のように輝いているが、インパクトの強いエピソードが2つある。ひとつは85年最強打線の打順についてだ。文章を忠実に再現しよう。「私の見立てでは(掛布は)やや下り坂に来ているなというのが正直な気持ちだったんです」。

 四半世紀の時を経て初めて明かした胸の内。ON後、山本浩二、原と共に球界を牽引した四代目ミスタータイガースの印象は強い。他球団は当然掛布をマークする。そこで勝負してもらえる3番にバースを置いた。結果は大当たり。バックスクリーン3連発に象徴される猛打が日本一の原動力になった。

 もう一つは村山実が長嶋茂雄に打たれた天覧試合サヨナラ本塁打だ。「あれはファウルだった」と村山は生涯言い続けたが、吉田氏は冷静に振り返っている。「私は打たれた瞬間に『やられた』と思って打球の行方を見なかった」。また「村山がファウルと言ったのも、ちょっと時間を置いてからでしょ」。半世紀以上の時を経た今、明かされた貴重な証言だ。

 出身地が由来で「越前蟹」のニックネームを持つ寺尾だが、176センチ、73キロとプロ野球選手に負けない堂々たる体格の持ち主だ。球場で吉田氏と談笑ている姿はまさに弁慶。現役時代に「今牛若」と称された吉田氏とのコンビは歌舞伎にでもなりそうな雰囲気を漂わせている。

 福井から鯖街道を昇り、虎番小僧→虎番キャップ→プロ野球デスク→編集委員と出世魚のように寺尾の呼称は変わったが、野球愛、タイガース愛は初めて記者バッジを付けた日から変わっていない。新書のインタビューで「今でも甲子園で野球がある時はできる限り足を運びます」と阪神愛を語る吉田氏とは深い絆で結ばれている。吉田氏は解説で阪神の好機になると「ここですよ。ここ、ここ」と拳を握り熱くなる。記者生活の円熟期を迎えた寺尾の抱負は「これからも鮮度の高い情報を読者にお届けしたい」。2人の濃密な時間が行間から伺える特別インタビューには一読の価値がある。

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