これは、本当にスゴいことなのか???

9月中旬、日刊スポーツに「エンゼルス大谷翔平(24)がマリナーズ戦の4回に放った遊ゴロが、打球速度113・9マイル(約183・3キロ)を計測し、今季自身最速」との記事が掲載されたことがありました。打球速度が「180キロ超え」と目にすると、一瞬、とんでもないことのように映るのですが、よくよく確認するまでもなく、結果は「遊ゴロ」。つまり、凡打=アウトでした。

昨今の野球界では「スタッツキャスト」などを筆頭に、野球を「科学」するような新たな分野が、すさまじいスピードで広がっています。おそらく米国が発端ですが、映像分析などテクノロジーの進歩に伴い、打球速度だけでなく、多様な角度から野球に関する詳細なデータを分析、数値化するようになりました。かつてヤクルト野村監督が、配球、対戦相手の傾向などを分析した「ID野球」を掲げて注目を集めましたが、近年の「野球科学」は、当時の「勝つため」とは、一線を画しているような気がしてなりません。

たとえば、投手の球速の場合、日本では1980年前後からテレビ中継などで、常時表示されるようになりました。時速150キロ前後であれば「剛速球」と言われますが、打たれてしまえば、結果的に「棒球」となってしまいます。メジャーの場合、たとえ160キロでも、タイミングさえ合えば、一瞬にしてサク越えされてしまいます。

その一方で、100キロに満たないスローカーブやナックルボールでも、打ち取れば「魔球」になります。米国には「ベースボール・サイエンス」の専門家(?)のような方々が多々いらっしゃいまして、投手の「スピン・レート」をことさら重要視しているのですが、少なくとも現役投手に聞く限り、スピン量を気にして投げているメジャー投手にお会いしたことは、今現在ありません。そこには、制球はもとより、配球、投球の「間」などのタイミング、一瞬の駆け引き…と、コンピューターでは計れない、さまざまな要素があることは、言うまでもありません。それが、プロの「技」なのでしょう。

確かに、大谷が時速160キロの速球を投げ、180キロ超えの本塁打を打つように、選手の潜在能力を伝えるうえで、明確な数値には説得力が伴うのでしょう。ただ、野球というスポーツは、投球や打球のスピード、飛距離を争う競技ではありません。時速180キロの「超高速遊ゴロ」よりも、打球の勢いを殺した時速20キロにも満たない芸術的なバント安打の方が、チームにとっては、何倍も貢献できるはずです。もし可能であれば、専門家の方々には、そのあたりも数値化してほしいものです。

極端な「シフト守備」をはじめ、データ野球が浸透し始めた頃、イチローがポツリと言いました。

「コンピューターを操っている人が、コンピューターに操られているような気がします」

数字やデータは、あくまでも目安-。

パソコンで弾き出された数字を軽視することはなくとも、最終的には「机上」のものに過ぎないような気がします。【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)