マーリンズのイチロー外野手(41)が“野球の神様”に並んだ。個人的な事情で急きょ欠場したオズナに代わって「8番中堅」で出場。第1、2打席と安打を放ち、ベーブ・ルースに並ぶメジャー通算2873安打(歴代42位タイ)を記録した。この日就任したダン・ジェニングズ新監督(54)の初陣を飾ることはできなかったが、また1つ歴史的記録に到達した。

 メジャー通算2873本目の安打は“らしさ”の光る一打だった。2点を追う5回2死走者なし。第1打席の左前打で王手をかけての第2打席。カウント1-0から2球目外角低めのチェンジアップにバットを合わせた。三塁手の頭上をフワリと越えた打球は、左翼線ギリギリにポトリと落ちた。80年前にルースが40歳で達した記録に到達。また歴史を書き換えた。

 歴史的安打の約9時間前には、チームが異例の人事を発表した。前日に解任されたレドモンド前監督の後任は、GMのジェニングズ氏だった。プロレベルでの選手・監督経験はゼロ。スカウトやフロントとして約30年の経験を持つ野球人でも、初陣前には緊張を隠せない。そんな張り詰めた空気を和ませたのが、イチローの粋な演出だった。

 試合前のダッグアウト。慣れないユニホーム姿の同監督に笑顔で歩み寄ると、その首に自宅から持ってきたチームカラーのネクタイを掛けた。「フロントはやっぱりネクタイ。スーツのイメージだから。それを取った後は、もう監督になるというジョーク」。背広組とユニホーム組。厳然たる一線があるのは日米共通だ。新監督誕生の一報を聞いた時に、垣根を除く手段としてネクタイのアイデアを思いついたという。

 全選手とハイタッチした新監督は、最後にイチローとガッチリ抱擁し、ネクタイを外した。この儀式で晴れて、現場の人間となった。試合後に同監督は「心が温かくなった。チームに受け入れられた瞬間。未来の殿堂選手が演出してくれた特別な出来事」と、イチローの心遣いに感謝した。

 GMとして、自身のマ軍入りを実現させたジェニングズ新監督について、イチローは「対話を大事にするイメージ。誰に対しても分け隔てない」と好印象を抱いている。監督経験がなくても「野球をよく知ってて、徳が高い人だったら、全然いいと思いますけどね。おかしな経験者よりも、発想として面白いと思いますよ」と好意的に受け入れた。新政権の初陣を白星で飾れなかったが、球団の歴史的な日に、ルースに並ぶ-。それもまた、レジェンド・イチローたるゆえんだ。【佐藤直子通信員】

 ◆イチローが狙う次なる記録 現在メジャー通算2873安打で、歴代33位のバリー・ボンズまであと62安打。米殿堂入りが確実といわれる3000安打までは残り127安打。通算500盗塁にはあと10で、3000安打と500盗塁を両方達成すれば史上7人目となる。日米通算では4151安打で、メジャー歴代2位タイ・カッブまで40安打、同1位のピート・ローズまであと105安打。