広島新井貴浩内野手(38)が、復帰1号となる2ランを放ち、昨季まで所属した阪神を単独最下位にたたき落とした。5回2死二塁、能見の直球を左中間スタンド最深部まで運んだ。広島の4番としての本塁打は07年10月7日ヤクルト戦(神宮)以来。7回にも2点適時打を放ち4打点。最下位だったチームを5連勝に導いた。

 甲子園にこだまする衝撃音を残し、新井の打球は左中間スタンド最深部に着弾した。1点リードの5回2死二塁。3ボールからの4球目だった。低めの138キロを完璧に捉えた。跳びはねるフォロースルーと、豪快なバット投げ。そして他を圧倒する飛距離。移籍1号には新井らしさが詰まっていた。ミートの瞬間に本塁打を確信した新井はゆっくりと歩を進めた。

 「打ったのは直球。追加点の欲しい場面だったので、打ててよかったです」

 オフに野球協約の上限を超える減俸提示を受け、自由契約を選択。広島復帰後も、愛されキャラは健在だった。この日先発の能見からはオフに「当てとくわ」と“挑発”を受け、甲子園初戦では関本から折れたバットをプレゼントされた。愛すべきチームと仲間。その前で、自慢のバットがうなった。最高のシチュエーションで新井が最下位脱出劇のヒーローになった。

 甲子園では直前まで主砲の役割を果たせていなかった。前日は5打席無安打。この日も得点機で回ってきた第1、第2打席で凡退していた。「この打席は絶対にかえすという強い気持ちでいきました」。待望の一撃が本塁打とは、やはり役者が違う。7回の第4打席でも1死二、三塁から変化球を捉えて中前に2点適時打を放ってみせた。

 「どこにいったか全然分からん。初ヒットは親に送ったかな。それ以外は覚えとらんのんよ。あんまり興味がないんよね」。本塁打王、ベストナイン…。数々の記念品、記念球を受け取ったが、今まで特別に飾ったことはない。過去は過去だ。前を向き、次の目標に向かって歩んできた。

 4番の猛打に乗せられるように3年目鈴木誠が満弾を放つなどチームは10得点で圧勝。昨年6月以来の5連勝で、最下位を脱出した。緒方監督も「1から4までの打線の働きに尽きる。いいゲームだったと思います」と最敬礼した。

 猛打爆発には代償があった。第4打席中に痛めた左手だ。途中交代し大阪市内の病院で検査を受け「左手中指伸筋腱(けん)脱臼」と診断された。今後は今日10日の状態を見て判断される。だが活躍がかすむことはない。阪神の4番として36本塁打を放っている。広島の赤いヘルメットをかぶっては、2倍を超える74本目の4番アーチだった。【池本泰尚】