後輩思いの先輩だ。阪神西岡剛内野手(30)が、絶妙なささやきで藤浪のプロ初完封をアシストした。1点を先制した直後の7回、打席に阿部を迎えたところで、マウンドに駆け寄って声を掛ける。「ホームランはダメ。ヒットはOK。四球はダメ」。ピンチではない。2死走者なしだった。それでも勝つために念には念を押す。大胆でありながら細かく気を配る。勝負師の真骨頂だろう。

 前夜の反省があった。先発岩田が阿部と向き合う直前に声を掛けたが被弾。悪夢が脳裏をよぎる。「嫌な予感があった。同じことを繰り返すのはよくない」。主砲を乗せれば、巨人打線に火がつくだけに、石橋をたたいて渡った。大阪桐蔭の後輩には特別な思いを持つ。いまはメッセンジャーも2軍にいる。正真正銘のエースになるべく自覚をうながす。「晋太郎はタイガースの柱と言われる投手になっている。自覚を持って投げなさい。お前で負けたらダメ」。追い詰められていれば和ませる。厳しくも温かいエールを送るのだ。

 自身もリードオフの役割に徹した。両軍とも得点を刻めない、6回1死走者なしだ。大竹のカーブを巧みにとらえ、ライナーで右前へ。打線がつながり、先制のホームを踏んだ。「打順が変わっていく中で役割も変わる」。5月は低調な打線に引きずられるように、調子を落とした。月間打率はまだ2割1分4厘だ。それでも連敗が止まり、笑顔が戻る。クラブハウスへの帰路、山脇一塁コーチが後ろから言う。「ツヨシの全力疾走のおかげや!」。機敏に動く姿は勝ってこそ鮮明に映える。【酒井俊作】