誰もが待ちこがれた白星だった。ヤクルト館山昌平投手(34)が12年9月25日以来、1019日ぶりの勝利を挙げた。初回、DeNA筒香の右前打で先制点を献上したが、許した安打はこの1本のみ。6回を1安打1失点で復活勝利に花を添えた。3度の右肘靱帯(じんたい)再建術(通称トミー・ジョン手術)を受け、前回登板した6月28日の巨人戦で814日ぶりに戦列復帰。復帰2戦目で完全復活を印象づけた。

 神宮から拍手と「館山~!」コールが鳴りやまなかった。館山の目に涙はなかった。歓喜に揺れるお立ち台で「いやー、長かったですね。本当にすみません。遅くなりました。僕としては長かった。でも何とか復活することができました」。満面に笑みを浮かべ、懐かしの勝利に浸った。

 魂の80球で向かった。初回2死二塁で筒香に低めのフォークを痛打され先制点を許しても、冷静だった。「コントロールされたボール。打たれて、もう駄目だと思わなかったのが良かった」。140キロ台後半の直球で押しながら、シュート、カットボールなどの変化球をコースに投げ分けた。「駆け引き的な部分もうまくいった」。4回に2四球で2死一、二塁を招いても、宮崎を外角スライダーで遊ゴロ。結局、許した安打は筒香の1本のみだった。

 試合後、ウイニングボールをしみじみ見つめ、こうつぶやいた。「このボールは飾ってもいいかな」。館山家には、最多勝のトロフィーやウイニングボールはリビングに飾られていない。お気に入りの投球フォームの写真が1枚あるだけ。「2年間かかった。今回の勝利は単なる勝利ではない。勝つのはいいですね」。空白の時間を耐えた本音が口を出た。

 スタンドには2軍でリハビリ生活をともにした由規の姿があった。後輩は右肩手術からの復活を目指し、先輩の勇姿を焼き付けた。リハビリ期間中は、愛娘の海音ちゃん(7)が父の思いを背負った。球団のダンスチーム「Passion」のジュニア部に所属。父の登板試合でユニットが実現できるようにと、練習に励んだ。

 そして館山はファン、家族、チームメート全ての思いを背負ってマウンドに立った。完全復活への道は、これで終わりではない。「優勝に向かって腕を振っていく。投げる試合は全てお立ち台に上がる」。頼もしい元エースが、戦いの場に戻ってきた。【栗田尚樹】