偉大な新記録よりも、尊い勝利を選んだ。西武秋山翔吾外野手(27)は、4打数無安打で迎えた延長10回1死、フルカウントから四球を選び抜き、出塁。連続試合安打は歴代3位タイの31試合で途絶えたが、中村のサヨナラ3ランで決勝のホームを踏んだ。高橋慶彦(広島)が持つ33試合連続の日本記録更新への挑戦を前に勝利への最善策を堂々と選択。ヒットメーカーの献身的な出塁で、チームの連敗は4で止まった。

 胸を張って見送った。延長10回1死。八戸大(現八戸学院大)の先輩でもある楽天青山の外角高め直球に、秋山のバットは止まった。四球を選んだ瞬間、6月3日の中日戦から刻み続けた31試合連続安打が途絶える可能性が高まることを意味していた。だが晴れやかな表情で一塁へ向かった。「ヒットを打ちたい気持ちはあった。でも打てないボールを振ってはダメになる。すがすがしい気持ちだった」。心は整っていた。

 中村のサヨナラ3ランが生まれ、仲間とハイタッチを交わしまくった。異例ともいえるお立ち台への要望。「ファンの方にお礼を言いたいので」と快諾した。「ここに立ってていいのかな」と笑いを誘い「連続試合安打を期待して来ていただいた方もいると思います。でもチームが戦っているので応援してください」と叫んだ。献身な男に拍手が降り注いだ。

 「球団記録(23試合連続)を超えてからは、いつ記録が途絶えてもいいと思っていた。でも30試合を超えてから、やはり記録を目指したいと」。札幌での日本ハム戦で31試合に伸ばし、帰京するとマスコミの注目が想像以上に高まったのを感じた。「今日、グラウンドに降りて報道陣の数が首位攻防戦かと思った。帯広(日本ハム-ソフトバンク)に行かなくていいのかなと(笑い)」。ティー打撃もテレビカメラに凝視された。「中村さん、栗山さん、浅村、森はいつもこんな中でやっていたのか」。重圧を体感した。

 シーズン最高の214安打、イチローの130試合での210安打、最高打率3割8分9厘。挑戦に終わりはない。連続試合安打への再挑戦を聞かれ「記録がかかっても、また四球を選ぶと思います。でもまた挑戦できる機会があれば」と1つの夢を胸にしまった。「注目していただいたのは、これからの野球人生で生きていく。記録のためにやるわけではないことを最後の打席で再確認した。明日の1打席目、いい形で出塁すること。それが目標です」。秋山が夢を与える日々は、まだまだ続く。【広重竜太郎】