悩めるトリプルスリーが目を覚ました。ヤクルト山田哲人内野手(23)が3打席連続本塁打と大暴れした。ソフトバンクとの「SMBC日本シリーズ2015」第3戦は、好相性のホーム神宮球場で第1打席から3連発。1回に先制2ラン、3回に勝ち越しソロ、5回にも逆転2ランを放ち、今シリーズ初勝利をもたらした。シリーズ3打席連発は70年の巨人長嶋茂雄に並ぶ45年ぶり史上2人目。長嶋は2試合にまたがっており、1試合3本塁打はシリーズ史上初の快挙だった。

 神懸かった打球がまたも、神宮の夜空に高々と上がった。山田がミスターを一気に超えた。1点を追う5回2死一塁。148キロ直球、内角高めの難しいコースをいとも簡単にさばいてみせた。ホームから中堅方向に吹き荒れる風に乗り、3連発目の逆転弾は左翼スタンドに吸い込まれた。1回の先制2ラン、1度は勝ち越しとなる3回のソロは、いずれもバックスクリーン左に着弾。3打席連発でミスターに並び、1試合3発で史上初の快挙を打ち立てた。「記録はうれしいです。疲れていたけど、吹っ飛びました」と、2戦目までの悩みを吹き飛ばした。

 絶好調時の“ホットゾーン”に再び戻っていた。「振ったら打球がいく、そんな感じだった。あの時と似ていた」。8月21日の中日戦の最終打席から四球を挟み、4打数連続本塁打の日本タイ記録を打ち立てた。この日も似た感触をつかんでいた。後押ししたのは、大好きな場所。「神宮って好きなんですよね。神宮の右打席には何かあるんじゃないかっていうくらい、打ちやすいんですよ。景色もいい。何でか分からないですけど」。言葉通りレギュラーシーズンに記録した38本塁打のうち、23本を本拠地でマーク。“パワースポット”で活力を得た。

 ルーティンも功を奏した。いつものように取り入れる試合前練習のティー打撃で、打撃フォームの確認を行った。23日のヤフオクドームでの全体練習から25日の第2戦まではブルペンに防球ネットが入っていないこともあり、できなかった。シリーズ2試合で7打数1安打。慣れない場所、日課も欠いた不安からか、不振を極めた。前日26日に福岡空港から移動する際は、ばったり遭遇したDeNA前監督の中畑氏から「もっと、きっちり振り切らないと」と、心配されるほどだった。その中で、本来の輝きを取り戻した。

 心のリフレッシュも、本来のスイングを支えた。神宮に向かう車内で流れる音楽が悩める自分を癒やしてくれた。大好きな歌手・GReeeeNの「子犬」という歌だった。実家でも犬を飼うほど犬好きらしく、「犬目線の歌なんですけど、和むんですよね」と笑ってみせた。

 慣れ親しんだ日常が、いつもの自分を呼び起こしてくれた。山田は「今日打ったからってまた違うピッチャーと対戦する。1試合、1試合頑張ります」と謙遜したが、神宮をお祭り騒ぎさせた男に、期待せずにはいられない。【栗田尚樹】

 ▼山田が3打席連発でシリーズ史上初の1試合3本塁打をマーク。3打数連続本塁打は70年第3戦11回、第4戦1、3回の長嶋(巨人)03年第4戦6、10回、第5戦1回の金本(阪神=1四球を挟む)に次ぎ3人目で、3打席連発は長嶋に次いで2人目だ。山田の3発は1回先制、3回勝ち越し、5回逆転。1シリーズで肩書付きの殊勲本塁打3本は68年王(巨人)柴田(巨人)80年ライトル(広島)03年金本(阪神)に並ぶタイ記録だが、山田はわずか1試合で最多記録に並んだ。また、1試合5打点以上は12年第1戦ボウカー(巨人)以来7人目。

 ▼これで山田は打率3割6分4厘、3本塁打、1盗塁。トリプルスリーを達成した年のシリーズで本塁打と盗塁を記録したのは山田が初めて。シリーズでは68年柴田(巨人)が打率3割3分3厘、3本塁打、2盗塁を記録したが、打率3割、3本塁打、3盗塁は過去になし。山田が史上初の「シリーズ版トリプルスリー」を達成できるか。