スーツでも、キヨシ節は全開だった。プレミア12の1次ラウンド、ドミニカ共和国-日本戦(台湾・桃園)前。テレビ中継の解説を務めていたDeNAの中畑清前監督(61)は、教え子の筒香、山崎康だけでなく、小久保監督、前田、山田らを大声で激励。秋山には遠慮なく「積極的に、だぞ」とアドバイス? まで送っていた。

 そんな姿に、またユニホームを着たくなったか、と問うと「そうだな…。って、バカ野郎!」と、まずは監督の時と変わらぬノリツッコミ。そして、「まだ(監督を退任して)1カ月だぞ。でも、こういう立場でグラウンドに立つと、また新鮮な気持ちになるな」と、スッキリした顔で返してくれた。

 辞任を決めるまでの1カ月。中畑氏の気持ちは揺れていた。「この順位(最下位)なら、辞意を示さないといけないだろ」とこぼす日もあれば、「(続投を願う)ファンの声を大切にしたい思いもある」と明かす日もあった。振り子のように行ったり来たりする気持ち。その中で固めた決意。コーチ人事なども絡んでの決断だったが、どうしても聞いておきたいことがあった。

 監督就任時から、変わることなく選手に求めてきたのは「最後まであきらめない姿勢」だった。南場オーナーから続投要請を受け、来年も優勝を目指せるチャンスが与えられた。にもかかわらず、自ら辞めるというのは、あきらめるということではないか。それは信念に反することではないのか。中畑氏は言った。「俺はずっと勝負の世界で生きてきた。最後まであきらめないという信念は、もちろん今もあるよ。でも、この世界で戦ってきた以上、俺がけじめをつけないといけないんだよ。わがままと言われるかもしれないけど、分かってほしい」。たとえ信念に反してでも、勝負師としての責任を貫いた。それは野球人・中畑清としての矜持(きょうじ)だったのかもしれない。

 悩み抜いて下した断。悔しさは残ったとしても、後悔はない。だから次の道をしっかり進んでいける。分かれ道に直面した野球人たちの決断。決断の数だけ、ドラマがある。【佐竹実】