由伸の監督道は白星から始まった。今季から就任した巨人高橋由伸監督(40)が、エース菅野智之投手(26)が昨年リーグ覇者のヤクルトを7回無失点に抑える好投もあり、初陣勝利を飾った。球団の新人監督で初陣に勝利したのは2リーグ制後では慶大の先輩でもある81年の藤田元司以来。2年ぶりのリーグ優勝、4年ぶりの日本一奪還へ、若き監督が盟主をけん引していく。

 口角が下がり、顔つきが険しくなる。長野の先制ソロにやや出遅れて初々しく3番目で出迎え、エース菅野が迎えたピンチの連続に顔がこわばった。局面で喜怒哀楽が応酬する。高橋監督は初陣で監督業の感情の起伏を思い知った。「勝ててホッとしているが、さすがに疲れました。選手の時も1つ勝つとうれしかったが、監督でこんなにうれしいとは」と、かみしめた。

 開幕前に野球賭博問題などが起こり、船出とは思えない空気が充満した。何度も謝罪の言葉を口にした。開幕セレモニーでも老川オーナーの謝罪に続き、あいさつする異例の場だった。だが試合が始まれば野球に没頭した。2回無死二、三塁の守備では前進守備で先制点献上を死守。「相手にもプレッシャーがかかるし、エースが投げているから」。7回のクルーズの大飛球がビデオ判定に持ち込まれる間に冷静に大西三塁コーチと相談し、代走片岡を送って追加点を呼び込んだ。「最初から最後まで考えっぱなしだった」。決断の連続に頭脳を回転させた。

 就任以来、「個の力を伸ばす」と唱えてきた。決して個に走ることではない。それは春季キャンプで松井秀喜臨時コーチがチームに講義で伝えたことと同じだった。ボードに文字を記した。「個人【左右矢印】巨人」。似た響きを持つ言葉は濃く結ばれていた。「異なることだけど切り離しちゃいけない。個人のために動くこともあるが、巨人のためにならないといけない」。偉大なOBの言葉が響き渡った。

 だから高橋監督も試合前のミーティングで説いた。「1年やっていれば、良いことばかりじゃない。でも無駄な試合、無駄な打席、無駄な1球もないし、負けていい試合なんか1試合もない。強い気持ちを常に忘れないように、1年間戦ってほしい。勝ちにこだわって、勝ちに最善を尽くそう。みんなで1つになって戦っていこう」。個の積み重ねが巨人の大きな推進力になると信じ、訴えた。

 まだ1試合を刻んだにすぎない。「スタートしたばかり。まだまだ長いシーズンがあり、そのことで頭がいっぱい」。苦悩の戦いを刻むほど、至福の瞬間が待ち受ける。【広重竜太郎】

 ▼高橋新監督が白星発進。巨人の新人監督で開幕戦勝利は81年藤田監督以来、35年ぶり。昨年の高橋監督は開幕戦に6番左翼で出場し、チームは勝利。2リーグ制後、現役引退の翌年に就任した監督の開幕戦勝敗を出すと、54年藤田(国鉄)●、59年杉下(中日)○、70年稲尾(西鉄)●、75年長嶋(巨人)●、78年広瀬(南海)●、87年有藤(ロッテ)●、04年伊東(西武)●、16年高橋○。白星は59年杉下監督以来、57年ぶり。現役最終年→監督1年目と、2年連続開幕戦白星は高橋監督だけ。