首位中日にまた孝行息子が現れた。ドラフト2位の佐藤優投手(22)がプロ初登板で先発し、5回1失点で白星を挙げた。2軍での先発がたった1度のルーキーが、大抜てきに応えた。セ・リーグでは首位チームが9連敗中だったが、意外すぎる男でジンクスをストップ。先発陣に故障者続出の中日は逆境をものともせず、今季3度目の4連勝とした。

 敵地のヒーローインタビュー。緊張のあまり顔色を失った佐藤が「今日は、たくさんの方に、応援していただき…」とぼそぼそ話すと、客席から「硬いぞ!」と声が飛んだ。「素直にうれしい。いろいろ考えても不安になるので、思い切って投げることだけ考えました」。無我夢中で投げ抜き記念星を手にした。

 優しい人間にと付けられた名の通り「優しすぎる男」と言われる。プロ入り後は注目のドラ1小笠原が取材対応に追われる中、荷物運びなどの雑務を毎日請け負った。「僕は2位ですから」。笑顔の裏で、実は入寮からの1カ月半で7キロも体重を減らしていた。1軍に昇格し、年下がいても「“後輩”の僕の仕事」と率先して下働きした。

 そんな優しすぎる右腕がマウンドでは驚くほど強気だった。2回に筒香に衝撃的なライナー弾を浴びた。ひるんでもおかしくない。だが、4回の第2打席はツーシーム2球で1-1とし、内角に142キロを突っ込んだ。差し込んで右飛に仕留めた。1点差。1発警戒の場面で、攻めた。

 長い腕をしならせる独特なフォーム。4月に2軍コーチ陣の指摘で、沈みすぎていた上体を立たせるフォームに変更。“大手術”を受け入れ、球の切れが出た。この日はキャンプで覚えたツーシームをフル活用。DeNA山崎康のようにスプリットに近い握りで、正確に低めに制球した。3三振はすべてツーシーム。変化を恐れない謙虚な性格が奏功し、急成長した。

 4月に先発転向し、1週間前に中日2軍が参加したアマチュア大会で7回無失点。プロでの先発はこの1試合だけ。異例の大抜てきだった。大野、小熊、ネイラーと次々に先発が離脱する中、7日の巨人戦でプロ初勝利を挙げた福に続く、新人の活躍だ。セ・リーグでは首位チームが9連敗中だった。「次のチャンスがあればアピールしたい」と話すもの静かなルーキーが、首位を襲う不思議なジンクスをいとも簡単にはねのけた。【柏原誠】

 ◆佐藤の2軍戦先発 岐阜・長良川球場で毎年行われ、中日2軍も06年から参加しているアマチュア大会「ベーブルース杯争奪社会人野球大会」。佐藤は5月3日の予選リーグ・七十七銀行戦に先発し7回無失点。これがプロ入り初の先発登板だった。それまでの最長は2番手で投げた4月26日ウエスタン・リーグ、ソフトバンク戦の4回2/3(失点3)。

 ▼ルーキー佐藤がプロ初登板を白星で飾った。新人の初登板初勝利は3月30日横山(広島)に次いで今季2人目となり、中日では98年4月9日川上が阪神戦で記録して以来、18年ぶり。00年以降、セ・リーグで初登板初勝利を記録した新人の人数を球団別に出すと

 球団 ヤ広巨神D中

 人数 553331

 00年以降はセ・リーグで中日だけいなかった。