自分のことを棚に上げている。好ましいかと言われれば、好ましくないのも分かっている。でも…。

「明るい-暗い」を縦軸、「面白い-つまらない」を横軸とした関数表の中で、出会った人を無意識のうちに分類しようとする、もう1人の自分がいる。

 野球には相手の心理を読んで、裏をかいたりする要素が多分にある。例えば守備の職人、参謀など「暗い-つまらない」に属しているように見えて実態は違う、あるいは実態を全く見せない人も多い。

 なかなか本音をさらさない相手を見極めようとする過程と、自分が見極められていく過程。互いを理解していく中で原稿やニュースが生まれて、もっと踏み込んでいって、打算を超えた縁まで伴ってくれば最高なんだけど…。現場に出て12年で数えるほどしかいない。それで十分じゃないか、とも思う。日々のやりとりや駆け引きの中に、取材の難しさと面白さがある。

 「明るい-面白い」に位置する人は、どの世界でも本当に少ないのではないか。特に「面白い」は意味が広い。笑いだけじゃない。ときに意表を突き、考えさせ、感心、共感させ、引き込む。しかも野球の世界では、勝ち負けなどのチーム事情や、周囲の目も絡む。場を読んでオブラートに包むことが多いから、なおさら見えにくい。

 超・私的には、楽天の小山伸一郎投手2軍コーチ(37)が「明るい-面白い」に含まれている。

 中継ぎの専門家として、球団創設からちぎっては投げたパワーピッチャー。見た目は和製ガニエ。持ち場を問わず投げまくり白星を拾った。高速すぎるシンカーを駆使して、平気でのど元を突く太さが重用された。英BBC放送「アニマルプラネット」の視聴者である当時の星野監督からは、そのスタイルから「ハイエナ」と命名された。通算19年で481試合に登板し、昨年限りで引退。コーチになった。

 ちまたで「ミスターイーグルス」といえば、礒部公一、高須洋介、岩隈久志、山崎武司、土谷鉄平、田中将大、嶋基宏となろう。この系譜に小山伸一郎を加えたっていいんじゃないか、いや加えるべきだと超・私的には思っている。若い楽天をまとめる人間力を含め、貢献度は非常に高かった。

 5月21日、札幌ドームで彼に会った。基本は見たまま、カラッとした明るい男である。

 小山 何してるんですか。

 -イーグルスの取材だよ(私は遊軍記者)。そっちこそ。1軍?

 小山 呼ばれたんです。昨日、星野副会長から電話で。

 -急だね

 小山 大丈夫っす。嶋がいるから。

 -嶋はいないよ。左手、骨折だろ

 小山 いますよ。見えないんですか。ほら、ここ。

 -え…

 小山 ここです。左手。アイツの分も頑張ります。

 要は嶋のミットをはめているだけ、そんなに面白くもないやりとりだった。しかし彼は「あれから5年ですね」と続けた。

 話は2011年の5月20日にさかのぼる。小山と嶋が、夜も深いバーカウンターで肩を並べていた。グラスは減っていない。(敬称略=つづく)【宮下敬至】