わたしも神ってる下水流です。広島の4年目下水流昂(しもずる・こう)外野手(28)がプロ初本塁打となる1号同点2ランを放った。2点を追う6回2死三塁から直球をたたくと、打球は左中間スタンドへ一直線。大学、社会人を経て、鈴木と同期入団した苦労人。「2軍の帝王」とささやかれた逸材が、ついに開花のときを迎えた。

 「プロ初より、いいところで打てたのがうれしい。同期ですけど、鈴木さんと呼ばせてもらっています」

 今季は開幕スタメンを勝ち取ったが、6打席で4三振して2軍落ち。「本当に落ち込んだんだよ」と振り返る。「このままじゃだめだ」と映像を何度も見返し、打撃を一から作り直した。「2軍でやってきたことを出せたことがうれしい」。野球の神様は見ていた。

 「ラストチャンスだと思っている。ダメならクビ」。1軍に合流した10日の仙台で言った。気付けば28歳。「年も年。そう何回もチャンスは与えられるものじゃない。しがみつくしかないんだ」。逆に肩の力が抜けた。同日の楽天戦で7番左翼で先発し適時打を放つなど、再昇格後は15打数7安打で4打点。先発でも代打でも存在をアピールしている。緒方監督も「やっと魅力のある打撃を見られた。場の雰囲気になれたというか。もともと力がある子だからね」と笑った。

 ケガの連続だった。シーズンを離脱せずに完走したのは昨季が初めて。右足のクッションになる「種子骨」は除去し、足には痛みが出ることもある。そのたび「1人じゃない。生活の安定感が違うから」とオフに結婚した夫人が倍以上の力で支えてくれた。下水流は決して「神ってる」ような男ではない。だが他でもないヒーローに、ついになった。【池本泰尚】

 ◆下水流昂(しもずる・こう)1988年(昭63)4月23日、神奈川県生まれ。横浜-青学大-ホンダから12年ドラフト4位で広島入団。高校3年時センバツ優勝、大学で2度ベストナイン、社会人で2年連続都市対抗出場の実績。178センチ、88キロ。右投げ右打ち。今季推定年俸810万円。