阪神岩貞に、思わぬ落とし穴が待っていた。5回だ。先頭坂口の平凡なゴロを三塁手上本がファンブルしてセーフ。これが引き金となり、1死一、三塁から4番バレンティンの左前適時打で同点とされ、さらに6番西浦の左翼線への2点適時打で、勝ち越しまで許した。5回に3点を失って降板…。スコアボードに4つのゼロを並べていた左腕は、顔を出しはじめた弱気の虫を抑えることができなかった。試合後の言葉から悔しさがあふれ出た。

 「とにかく抑えたいという気持ちで投げた。勝負どころで粘ることができなかった。悔しい負けになりました…」

 特別な思いがあったことは間違いない。この試合は熊本・必由館高の先輩であるヤクルト山中との「同門対決」だった。プロ入り後初めてとなる2人の対決。一塁側スタンドには恩師である同校の西田尚巳監督(51)を招待していた。同監督にとっては教え子がプロの舞台で投げ合うという夢の試合。軍配が上がったのは、6学年上の先輩である山中だった。

 「今日は調子自体は悪くなかったので、なんとかチームが勝っている状況で後ろへつないでいきたかったのですが、それができず悔しいです」

 今季ちょうど20試合目の登板の岩貞は、これで9敗目(5勝)となった。だが、昨季までシーズン1勝止まりだった男がローテの一角としてチームを支えている。西田監督は「プロ野球選手になりたいと言ったらみんなに笑われるような投手だったんですよ。それがね」とうれしそうに話した。高校生の頃からこの舞台に立つことを夢見てきた。可能性がある限りは前を向く。チームのために最後まで腕を振る。【桝井聡】