恩師の言葉を胸に、常勝軍団をよみがえらせる。西武辻発彦新監督(57)が3日、埼玉・所沢市内の球団事務所で就任会見を行った。2年契約で背番号は85に決まった。黄金期を支えた守りの名手は3年連続Bクラスという低迷脱却に向け、守備の重要性を強調。21年ぶりに復帰した古巣を、優勝に導くことを誓った。6日の秋季練習初日にナインと顔合わせし、あいさつを行う。

 強い西武を支えてきた守りの職人、辻新監督らしい力強いまなざしだった。「投手を中心とした守りから入っていかないと優勝は出来ない。1点を、いかに取るか、いかに守るか、というところから始めたい」。

 3年連続Bクラスという屈辱を晴らすために掲げたのは“攻めの守備”だった。今季のチーム失策数は両リーグワーストの101。立て直しへ、まず指摘したのは技術面ではなかった。「攻撃的にミスするならいいよ、という気持ちでやらないとエラーはまた増えてくる。気持ちが前に出ない選手にエラーが増えるのは間違いないこと。アグレッシブに攻めたプレーができるように見ていきたい」。勝負師として、ミスを恐れない積極性を求めた。

 心に刻まれた言葉がある。「稽古とは一から習い十を知り 十よりかえる元のその一」。プロの門をたたいた1984年。当時の広岡監督からもらった色紙にしたためられていた。「練習を積み重ねて力をつけても、基本が一番大事だという言葉。常に頭に残っている」。日々の鍛錬が守備の名人を作り上げた。野球人・辻発彦の原点。「全てのことに手を抜かなかった」という自負があるからこそ、メンタルの強さが浮上に欠かせない力だと訴えた。

 就任要請を受け、眠れない日もあったという。「初めての経験なので不安はある」と隠すことなく明かした。野球人生の集大成として臨む監督業。「ここでの12年間が、今の自分を作り上げたと思ってます。感謝の気持ちとともに何とか恩返しができれば、という気持ちになった」とうなずいた。

 日本ハム、ソフトバンクの2強にぶっちぎられた今季。「勝ち抜くのは大変だが、当然負けたくない。やるからには、絶対優勝する気持ちでやります」。プロの「一」を学んだ地に戻った男は、頂点だけを見据え、全身全霊を傾ける。【佐竹実】

 ◆辻発彦(つじ・はつひこ)1958年(昭33)10月24日、佐賀県生まれ。佐賀東から日本通運を経て83年ドラフト2位で西武入団。96年にヤクルトへ移籍し99年引退。ヤクルト、中日でコーチを務めた。通算成績は1562試合、打率2割8分2厘、56本塁打、510打点、242盗塁。

 ◆「稽古とは一から習い十を知り 十よりかえる元のその一」 千利休が茶人の心得を百首にまとめた利休百首の中の言葉。日々の鍛錬で一から十まで学んだとしても、再び一に立ち戻ることで、新たな何かを発見したり、習得したものにさらなる磨きをかけられるという教え。