プレーバック日刊スポーツ! 過去の10月23日付紙面を振り返ります。1990年の1面(東京版)は近鉄のルーキー野茂英雄が沢村賞獲得を伝えています。

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 近鉄野茂英雄投手(22)がプロ野球NO・1ピッチャーの栄冠を手にした。

 22日、沢村賞選考委員会が東京都内のホテルで行われ、1990年度受賞者に野茂を選んだ。21試合2ケタ奪三振の日本記録をはじめ、数々の三振記録でファンに夢を与えたことが評価された。同賞はプロ野球草創期の剛球投手、故沢村栄治(巨人)を記念し、日本一の本格派投手を選ぶもの。47年に制定され、昨年からパ投手も対象となり、野茂はパから初の受賞者。新人では66年堀内(巨人)以来24年ぶり5人目。賞金300万円が贈られる。

 神妙な顔つきで、金びょうぶの前に座った怪物クンが輝いて見えた。主役・野茂が記者会見の行われた大阪市内の都ホテル「明日香の間」に現れると一斉にフラッシュがたかれた。

 「セ、パ両リーグを合わせても、選ばれるのはピッチャーで一人なわけですから、かなり価値のあるものだと思います」

 活字にするとよどみないが、全く予想していなかったというビッグな栄冠だけに、興奮もあって口ぶりはたどたどしかった。もちろん、沢村栄治-という日本プロ野球界の“英雄”を身近に感じられないこともあるだろう。だから、余計に格式高い賞に映り、マウンドでは決して見せない緊張した表情になったのだ。

 同じ最多勝タイトルを獲得した西武渡辺久、2年連続で20勝をマークした巨人斎藤と張り合っても、プロ1年生は負けなかった。選考委員会では「満場一致」で決定した。なぜ自分が選ばれたのか? という問いに、自分に対して初めて評価をしてみせた。「フォームの豪快さと、それと三振が認められたんだと思います」。選考委員座長の別所毅彦氏も「野茂の三振をとる姿勢は沢村さんのイメージにピッタリです」と選考理由を説明した。

 幻の大投手・故沢村栄治がそうであったように、野茂と奪三振は切り離せないものがある。足を頭上まで高々と上げたダイナミックなフォームから繰り出した沢村の剛速球と三段ドロップ。あの独特なトルネード投法に150キロと消える魔球フォークを武器にした22歳の姿は、長い歴史を通じてだぶついている。

 1試合17奪三振の日本タイ、5試合連続、通算21試合2ケタ奪三振の「日本新」……と記録ラッシュの野茂の成績は、“三振の美学”を追求した結果でもあった。

 「三振の記録は本当に意識してないんです。ただピンチに追い込まれた時、2ストライクに追い込んだ時には三振狙いでいってるんです」。午後6時から大阪市内のホテルで行われた球団納会では、上山善紀オーナー(本社会長)から「オーナー賞」を受け二重の喜びを味わった。

 本人が思い残すことは、日本シリーズ放送を見ていない負けず嫌いの黄金右腕が残した言葉に表れた。「来年は僕も出てみたい……」。4冠を独占し投手部門を完全制覇した男が、決して一人では成すことができなかったリーグ制覇に思いを寄せていた。

 選考事情

 野茂の受賞は、選考委員の満票で決定した。ノミネートされたのは、巨人斎藤、近鉄野茂、西武渡辺久の3人だったが、同賞選考の基準である25試合、200イニング以上の登板、防御率2・50以下、10試合以上の完投、15勝以上、奪三振150以上などから、斎藤、野茂の争いとなった。

 斎藤は2年連続の20勝ながら、奪三振が146と基準を下回り、さらに後半に完投が減少した点が指摘された。一方、野茂は防御率が2・91と基準以下ながら、何といっても全身を使った力強いトルネード投法で287個の奪三振マシンぶりを発揮。ファン招集の役割も果たしたことが評価されての全員一致の推挙となった。座長の別所氏も「野茂の三振を取る姿勢は、沢村さんのイメージにぴったりだ」と選考の事由を説明した。ルーキーの受賞は、村山、堀本、権藤、堀内に次いで5人目。

 ★野茂が作った記録★

▼ゲーム17奪三振のプロ野球タイ記録 4月29日、オリックス5回戦でマーク。阪急足立の記録(62年5月24日、対南海戦)に28年ぶりに並ぶ。次回の登板と合わせ、2試合で31奪三振のプロ野球新記録も。

▼5試合連続2ケタ奪三振 8月24日、オリックス20回戦で達成。昨年までは71年阪神江夏の4試合連続が最多。野茂は3度目の挑戦で記録更新。

▼年間21度の2ケタ奪三振 10月10日、西武25回戦で記録。68年江夏がマークした20回を上回るシーズン最多2ケタ奪三振。

▼年間最高奪三振率10.99 68年江夏が残した奪三振率10.97を最終戦で抜き、プロ野球新記録を作る。

▼4冠投手 最多勝、最高勝率、防御率1位、最多奪三振とパの4タイトルを独占。この4部門を制したのは9人目。新人では80年木田(日本ハム)に次いで二人目の快挙。

※記録と表記は当時のもの