崖っぷちのチームを再起させる投球だった。クライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第3戦で、DeNA井納翔一投手(30)がカープ打線に内角攻めを貫き、流れを呼び込む7回無失点。8回2死満塁では、左太もも裏肉離れから復帰した須田幸太投手(30)が新井に右邪飛を打たせ、左手薬指骨折の梶谷隆幸外野手(28)が決死のダイビングキャッチと、傷だらけのナインも呼応した。2試合連続完封負けだったが完封返しに成功。さあ、逆襲だ!

 逃げず、恐れず、反撃に出た。井納が拳を振り下ろした。7回2死一塁。広島安部をフルカウントから146キロの内角直球で空振り三振に斬り捨てた。「フォークを待っていたのかもしれない。自分の中で恐れず、悔いのないように。それだけです」。雄たけびを上げ、こん身のガッツポーズで締めた。

 問答無用の崖っぷちだった。難敵黒田との投げ合い。3連敗なら即敗退。託されたマウンドの意味は深く理解していた。「CSという舞台はすごく興奮する。最高のマウンド。緊張感も何もかもが違う。このマウンドを(石田)健大、(今永)昇太にも残したい」。第4戦以降は伸び盛りの両左腕が先発として控える。後輩に最高の舞台を用意する使命を強く意識した。

 重圧をものともしない“宇宙人”的な験担ぎも的中した。前夜、今永と食事に出かけた和食店は広島市内の「黒田」。店主から、マツタケ入りのクエ鍋を差し入れされ「これで黒田さんを食えるかもしれませんね! 負けて当然という気持ちで頑張ります」と脂が乗った高級魚を今永と並んで頬張った。7回無失点の好投で前夜、描いた青写真が現実になり「絶対に昇太に回すと約束した。それが出来て良かった」と満足げだった。

 プロ入り前は日陰の野球人生だった。甲子園の出場はなく、上武大でも最終学年になって2番手。社会人のNTT東日本では3年目の終わりから、ようやくベンチ入りだった。だが、プロ入り4年目の今季は「全てを変えるぐらいの覚悟でやる」と、初の開幕投手を務め広島を倒し、巨人とのCSファーストステージ初戦でも白星をマーク。エース格としての信頼を勝ち取るまでにきた。

 頼れる右腕の仕事ぶりにナインも勇気を得た。8回2死満塁、絶体絶命の危機に、須田が魂の直球で右邪飛にし、梶谷が劇的ファインプレーで応えた。「(井納は)アンビリーバブルな投球だった。ここでも勝てるだけの力があると証明できた。まずは、もう1戦、勝ちにいく」とラミレス監督の言葉に勢いが戻った。井納も「今日は勝てて良かった。でも自分はまだまだ。チームのために投げられていることに感謝しないといけない」と照れくさそうに呼応した。不格好でいい。土壇場からの「ハマの逆襲」が始まる。【為田聡史】