極端な発想の転換が打者一巡を呼んだ。5月16日のDeNA戦(尾道)。広島打線はDeNA先発浜口に4回まで無安打無得点に抑えられていた。流れが変わったのは1点を追いかけていた5回。先頭エルドレッドの4球での四球に続き、新井貴浩内野手(40)が選んだ四球。1打席目は3球三振に倒れ、この打席も3球で追い込まれた。DeNAバッテリーの思惑、新井の瞬時の発想の転換と対応に追った。【池本泰尚、前原淳、佐竹実】

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 4球目から突然、新井が変わった。「ノー感じ」だった打線がDeNA浜口に襲いかかった5回、無死一塁。カウントは1-2。直前の3球目は、初球と同じ外角へのチェンジアップを空振りした。この日4度目のチェンジアップの空振りで追い込まれ、バットを強くたたいて悔しがった。後がない-。強烈な発想の転換を伴い、自分に誓った。

 「死んでも右に打つ。何回も同じことをして、ものすごく腹が立った。意識、考え方をガラッと変えた」

 4球目。ワンバウンドのフォークをミットに入るまで視線を切らさずに懸命に見逃した。5球目はまたチェンジアップ。今度こそ、全身を使って見逃した。6球目も、外へのチェンジアップがしつこく続いた。今度はゾーンから逃げていくボール。引きつけバットを投げ出して対応。なんとか右方向へのファウルで逃げた。風向きが、変わった。

 そして7球目。この試合新井への初めての直球は、高めに大きく外れた。DeNAの捕手高城は後悔を持って振り返る。「結果的にあの四球が痛かった。振ってくれなくなって、最後に直球を選んだんですが…。その前にどこかで直球を挟む選択もあったかもしれない。でも、チェンジアップに合っていない感じだったので、続けることを選んだのですが」。この四球から浜口は大きく乱れていった。

 攻略は難しかった。あまりにチェンジアップの多い浜口に、広島打線は手を焼いていた。緒方監督は「いい高さから曲げられたり抜かれた。1巡目はノー感じだった」と潔く振り返る。前回登板巨人戦で出ていた傾向に増して、多かった。DeNA担当の奥スコアラーも「正直、面食らった部分はある」と言う。4回まで無安打無得点。5三振を喫し、糸口すら見つけられずにいた。だが石井打撃コーチは試合中も「後手に回ることになる」と指示を変えなかった。5回表。広島先発野村が先に失点。石井コーチはあえて攻撃陣を鼓舞するように「試合が動いたぞ」と声を掛けた。

 打線をつないだ新井も同様だった。第1打席は初球スライダーを見逃した後、チェンジアップ2球を空振りして三振。「全然タイミング合っていなかった」と笑う。チーム方針はシンプルだった。「追い込まれるまでは直球狙い。チェンジアップの空振りはOK。追い込まれたら逆方向を意識」。だが裏をかくような変化球主体の配球にやられた。高城は「ベース盤以外の球も振ってくれていた」と手応えがあった。

 しぶとく、意識の変化で四球を奪い取った新井。だが、自身の状態が悪いこともまた、隠さずに言う。「今は目いっぱい意識しないと修正が効かない状態。あれを見逃せる、バットに当てられるのが普通の状態。ただ思い切って変われたのは、経験かな」。最低限の結果と謙遜するが、新井だからこそ、選べた四球だった。「最年長が、チーム方針を忠実に守ってくれた」。最後に石井コーチは、最大級の賛辞を送った。修羅場をくぐり抜けた男の、気迫勝ちだった。

 ▽広島石井打撃コーチ(新井の四球に)「最年長が、チーム方針を忠実に守ってくれた」