<西武1-2オリックス>◇20日◇西武ドーム

 オリックスに救世主が現れた。金子千尋投手(24)が20日、西武との開幕戦(西武ドーム)で昨季の最多勝涌井と投げ合い、7回118球、10三振を奪う力投で白星をつかんだ。7回裏無死一塁でのバント処理ではフィールディングの良さで併殺にしのぎ、昨季から続く先発連勝記録を7に伸ばした。入団するドラフト前には「空指名騒動」に巻き込まれた4年目右腕が、先発陣に故障者続出のチームに希望の光をともした。

 ヒーローインタビューを終えた金子は、少年のように小走りでベンチ裏に戻っていった。まだ表情にあどけなさが残る24歳。全国的にはほぼ無名の右腕が、初の開幕投手を務め上げたばかりか、昨季の最多勝右腕に投げ勝った。140キロ台中盤の直球と落差のあるカーブを軸に7回10奪三振1失点。コリンズ監督も「変化球がよかった」と評価した。しかし金子はそんな大仕事が、まるで普通の出来事のように振り返った。

 金子「試合に入ったら緊張とかを考える余裕はなかった。(涌井に投げ勝った)そのことよりチームが勝つことがうれしいですし、相手のことを考える余裕はなかった」。

 「投げ合い」の明暗を分けたのは守りだった。1-1の同点で迎えた7回裏無死一塁。西武細川のバントは一塁寄りに転がってくる。猛然とダッシュした金子は、捕手・日高の指示で迷わず二塁へ送球し、併殺を完成させた。直後の8回表、同じ状況で涌井は二塁へ悪送球。オリックスは無安打で決勝点を奪った。勝敗を決した対照的な場面となった。

 金子「思ったほど転がってこなかったんで、どうかなと思った。練習でもしたことがないプレーができて、自信になります」。

 前日練習(19日)で投内連係の確認はしていない。張り替えた新しい人工芝、さらにマウンドも変わったグラウンドで、守備だけの練習を行わないのは異例ともいえる。金子はこの日、練習前にマウンドに上がり、練習最後にはマウンドにかけられていたシートを外してまで再確認。初の大役直前でも冷静さを失うことはなかった。

 ぶれないことには慣れている。トヨタ自動車在籍時、右ひじの遊離軟骨が見つかったことが発端で、04年のドラフト前に「空指名騒動」に巻き込まれた。当時の小泉球団社長が実行委員会で「(一般論として)故障の発生した場合に自由枠を放棄できるのか」と、契約しない可能性を示唆。結局、自由枠で入団したが、手術回避を選択。じっくりと1年目にリハビリを続けたからこそ、今がある。

 開幕直前に故障者続出で窮地に追い込まれたオリックス先発投手陣の救世主だ。昨季はシーズン終盤に先発で6連勝。年をまたいでも不敗神話を継続させ、連勝を「7」に伸ばした。

 金子「(連勝は)去年のことは考えないようにしている。チームが勝つことが大事。続けられるまで続けたい。(7回降板は)最後まで投げさせてもらえないのは今の信頼のなさ。続投させてもらえるような投球をしたい」。

 愛称「ネコちゃん」。その風ぼうとは違い、去年まで帽子のつばには「ネコ」のツメを絵で描いて闘争本能をかき立てるなど気持ちは強い。飛び出してきた新星が、昨季最下位のチームを台風の目に押し上げる。【今井貴久】