<中日2-5楽天>◇8日◇ナゴヤドーム

 喜びの中で加速した。中堅のフェンス際を転がる打球を確認すると、楽天鉄平は一気に三塁を目指した。同点で迎えた中日戦の9回無死二、三塁から試合を決める決勝の2点適時三塁打。立ち上がりざまに、派手に拳を振り下ろした。「もうやらないと思いますよ」。試合後はクールに言った男も、交流戦単独首位を守る会心の殊勲打に思わず体が動いた。

 古巣相手に静かな闘志を燃やしていた。05年オフに中日から金銭トレードで楽天入り後、才能を開花させた。試合前、古巣の選手とあいさつをする鉄平の姿に野村監督は「いい選手でも試合に出られずに埋もれてるやつがいる。あいつもそうやった」と話した。同じく元中日の山崎武も「試合前に鉄平や小山に絶対勝つぞって言ったんだよ。おれたちは中日にいらないと言われて(楽天に)来たからな。少しは意地を見せられたんじゃないか」と目尻を下げた。鉄平も「いい思い出になりました」と少ない言葉に感慨を込めた。

 理想は高い。交流戦に入り打撃フォームをよりコンパクトに微調整した。結果は交流戦4割2分1厘の高打率に表れた。それでも「理想の打撃フォームというのは分かりません。安打が出れば、それがいいということなんでしょうが。それを探す旅みたいなものですね」。完ぺきを求め、現状に満足はしていない。

 チームは3連勝で、貯金も6とし球団記録を更新した。野村監督は「毎日辞表。何枚書いても足りんわ。まさにPRAY

 FOR

 GOD(神頼み)。いつもベンチで神様にお祈りだよ」ととぼけた。「頭が絶好調」と監督絶賛の代打憲史がきっちり四球を選び、渡辺直に代わり1番に座る鉄平が決めた。各選手が役割をきっちり果たしての快勝にも「勝ちに不思議の勝ちあり。不思議の3連勝だな」。日替わりヒーローが生まれるチームの勝利は、積み上げるほど不思議でなくなっていく。【小松正明】