<中日1-0巨人>◇28日◇ナゴヤドーム

 巨人が今季初の単独首位浮上に失敗した。先発の上原浩治投手(33)が8回に中日荒木雅博内野手(31)に痛恨のソロ本塁打を浴び、0-1で敗れた。上原は復帰後初完投も、8回2死2ストライクからの1球に泣いた。打線は初回に小笠原道大内野手(34)が右手小指に死球を受けて退場するアクシデントもあり、6月15日楽天戦以来約3カ月ぶりの無得点に封じられて上原の力投に報えなかった。巨人が2位に後退したことで、試合のなかった首位阪神に優勝へのマジック8が点灯した。

 悔やんでも悔やみきれない1球だった。8回裏2死、上原の指先の感覚が危険を察知させた。内角を狙ったスライダーが真ん中へと吸い込まれる。長打力のない打者が、唯一ホームランにできる失投だった。痛恨の1発に、左翼スタンドを見つめ、両手をひざの上に乗せたまま、うなだれるしかなかった。0-0の投手戦が崩れ、負けられない試合の敗戦が決まった瞬間だった。

 まさかの失投は、まさかの配球から生まれた。この試合に限らず、ここ数試合の阿部のリードは、確かに投手陣を引っ張っていた。西山バッテリーコーチと話し合い、必死に配球を研究し、打者をじっと観察し、実戦に対応してきた。しかし、抑えたいという強い気持ちが、裏目に出る。

 今季3本塁打しか打っていない荒木は、ここまで外角の球に食らいついていた。「それで色気を出すと、あそこにいきたくなるんだよなぁ」と西山コーチが阿部の言葉を代弁するように悔やんだ。「ボクの選択ミスです。あの1球だけ。申し訳ありませんでした」と阿部が要求したのは内角へスライダーだった。上原の指先も狂い、絶好のホームランボールになってしまった。

 ベンチに帰ると、グラブをたたきつけた上原だが、試合後は怒りを押し殺すように淡々とした表情で話した。「負けてしまったから何もない。全部、おれが悪い。結果がすべて」。しかし、8回1失点でエースらしいピッチングを復活させ、敗戦の責任を背負えるエースの実力は復活した。投げるだけではなく、5回表2死二塁からはレフト前ヒットも放った。二塁走者が阿部以外ならタイムリーになっていたが、惜しくも本塁で憤死。原監督も「ナイスピッチングだった。バッティングの方もしつこくいっていた。心技体、どれもいい状態だったね」とエース復活をたたえた。

 勝てば今季初の単独トップに立ったが、2位に転落して阪神のマジック8を点灯させてしまった。この試合で抑え込まれたチェンは、10月4日か5日の試合で再び対戦することが濃厚となっている。残りわずかな戦いで上原が復活したが、新たな難敵をつくった。悔しさを晴らす舞台は、逆転Vを実現させるための“壁”となって立ちはだかった。【小島信行】