<西武3-4オリックス>◇29日◇西武ドーム

 オリックスのクライマックスシリーズ(CS)初進出が29日、決定した。西武戦に勝ち、ロッテが日本ハムに敗れたため、2位も確定。10月11日に始まるCS第1ステージは本拠地の京セラドーム大阪で開催することが決まった。オリックスのAクラス入りは99年以来で、8年連続Bクラスからついに脱出した。試合は同点の延長10回表、1死三塁からルーキー小瀬がスクイズ。辞任したコリンズ前監督に代わり、5月から指揮を執る大石監督の執念采配が実を結んだ。

 ベンチ裏で大きく息を吐く。長いトンネルを抜けた大石監督が安どの表情を見せた。「本当に苦しんで…。結構、苦労したからうれしい。選手が本当によくやったと思います」と目尻を下げた。初のCS進出だけでなく2位が確定。決めたのは指揮官の執念だった。

 延長10回表1死三塁で勝負のタクトを振る。三塁コーチャーの松山コーチへサインを送る体は「震えました」。スクイズだった。小瀬が投前に決め、三塁側ベンチで両手を広げて迎え入れた。最後の守りではハーフスイングの判定にベンチを飛び出して抗議の姿勢を見せた。8年連続Bクラス脱出のため、炎になった。

 今季はヘッドコーチとしてコリンズ前監督とチームの間に入り調整役を任されたが、板挟みで眠れない日々が続いた。ベットで6時間も睡魔が訪れないこともあり、2月のキャンプ時から体重は7キロ減。だが弱音を吐くことはできなかった。

 5月20日に球団フロントからコリンズ前監督の辞意を聞かされる。かさねて監督代行就任を伝えられ「前監督を支えられなかった責任がある。自分まで投げ出すわけにはいかない」と承諾。「自分ですべての責任を負わなくてはいけない。でも間にいるより自分にとっては良かった」と話す。

 8月に代行から監督に就任し、タクトのスピードは加速する。ナインが飢えていた機動力を前面に出し、ローズ、カブレラにも重盗のサインを出した。小瀬、坂口の俊足コンビの打席では、走者がいても簡単にはバントで送らない。「自分たちには力がある」と選手たちの眠っていた闘争本能を目覚めさせた。

 投手陣にもプレッシャーをかけなかった。先発は中5日以上を維持。疲れの見え始めた中継ぎには「5回のうち全部を抑えようとしてくれなくていい。3、4回良ければ十分」と追い込まなかった。前監督とのはざまで苦しんだ過去があるから、選手を守った。

 勝っても眠れない。「野球のことというより、どうでもいいようなことを考えるんですかね。胃は痛まないんですけど、頭が痛い」と、指揮を執るだけはない監督職の重圧とも戦っていた。前日28日の同戦で初めて胃が痛くなり「大分に詰まってきましたね」と、自分を追い込んでいた。

 執念は結実した。「まずは第1目標ですから、決められて良かった。(CSは)今は考えられない。ちょっと興奮状態です」と笑った。監督が途中交代した時点でBクラスだったチームを、Aクラスに押し上げたパ監督は初めて。穏やかな一夜の眠りの後、新たな歴史をスタートさせる。【今井貴久】