WBC連覇を狙うサムライジャパンの“影武者”が、早くも本格始動だ。巨人の現役スコアラー、西山一宇氏(38)が、日本代表スコアラーに就任することが13日、判明した。西山氏は早速、東京ドームで開幕したアジアシリーズを観戦。ライバル国の洗い出しに着手した。緻密(ちみつ)な仕事ぶりで、原辰徳監督(50)は巨人でも信頼を置く。職人がスキなくデータを集積する。

 人影まばらな昼下がりの東京ドーム。スタンドの片隅に、西山スコアラーがひっそりと座っていた。右手にアジアシリーズの選手名鑑、赤ペンのチェックがもう入っている。左手にはビデオカメラ。「本番まで時間がないが、できることはすべて、やっておかないといけない」。WBC日本代表スコアラーに就任しての、初仕事だった。

 初めて対戦する相手との一発勝負は、いかに下準備をして戦いに臨むかが重要で、スコアラーの調査力が生命線となる。巨人でともに仕事をする中で、原監督から力量を高く評価され、抜てきされた。相手選手のプレーをつぶさに分析し、傾向をナインに伝達する「動作解析」が専門分野だ。極めて微妙な動作の変化は、そう簡単に見つかるものではない。執念に近い根気強さとしたたかな観察眼が持ち味。今季巨人の大逆転Vを陰から支えた。

 現在、正式決定しているサムライジャパンのスコアラーは1人しかいない。「調査する量は膨大になる。こうしてアジアの選手は直接見ることができる。だが中南米の強国などは、それができない可能性がある。いかに蓄積をつくるか」と言う。21日に行われるミーティングの席上、情報収集の方向性を打ち合わせる。

 12日に行われた原監督の就任会見を聞き、決意を新たにした。「監督は『我々は今、船出した。いい港までしっかりと船を進め、到着したい』とおっしゃった。船を正しく進める、お手伝いをしなくては」。アジアシリーズは当然、全試合見る。実力派が集うサムライジャパンを、うならせる材料を集める。サムライの真骨頂となる緻密な野球の実現へ。きまじめな男の挑戦が、静かに始まった。