<ヤクルト2-8阪神>◇29日◇神宮

 待ってましたで、アニキ~!

 がけっぷちに追い込まれていた阪神が、4番金本知憲外野手(41)の復活とともに生き返った。阪神移籍後最長25打席ノーヒットだった4番は3回に適時二塁打。さらに4回にも連続二塁打を放ち3打点と復調した。脇を固める鳥谷も新井も2打点ずつマークしてヤクルトに快勝。史上10人目となる通算400二塁打も達成した金本に快音が戻り、クライマックスシリーズ(CS)圏3位に再び0・5ゲーム差と迫った。さあ、今夜もこの勢いで3位を奪い返す。

 4番のバットに快音が戻り、阪神はがけっぷちに踏みとどまった。金本が、経験のない長いトンネルを抜けた。会心の手ごたえを残すライナーが右中間に伸びていった。一塁走者鳥谷を本塁にかえす、適時二塁打。3回表に1点を追加して試合のペースをつかむ一打は金本自身、22日横浜戦の3打席目以来で6戦、26打席ぶりに放ったヒットになった。

 「出たね。これで乗っていける」。真弓監督も身を乗り出した、主砲のお目覚めだった。1回に1死一、三塁のビックチャンスでもヤクルト由規の速球に押し込まれて三塁ファウルフライに倒れた。これでプロ18年目で自己ワーストとなる25打席連続無安打となった。捕球後もしばらく、打席に立ちすくんで首をかしげた。3位争いにチームが負けられない状態の中で、スランプを抜け出せない自分をのろった。

 「クリーンアップが打ったことより、苦しんでいたカネに1本出たのが大きい。きょうは試合前の練習から、インパクトで押したり引いたりの修正をしていた。飛ばそうとして下半身を使えていなかったから」

 じっと見守っていた和田打撃コーチも胸をなで下ろした。続く4回の打席を見れば、いかに4番打者を縛っていた鎖が固かったかが分かる。鳥谷の二塁打で再度勝ち越し、なお2死二、三塁の場面。外角球を素直に左翼線にはじき返し、2点を追加する連続二塁打を軽々と放った。

 二塁打はこれでプロ通算400本目。史上10人目となる大台に達したが、もちろん数字の積み重ねに興味はない。7回にアッチソンが田中浩に打ち返された左翼線のライナーを全力で追い、最後はぬれた人工芝の上に滑り込んだ。執念のスライディングキャッチは、負けられない一戦にもフルイニングで出場する41歳ベテランの心意気だった。

 「ファンが望んでいる以上、3位は目指す。いや、今言えるのは順位がどうこうより、残り試合で1つでも多く勝つことだけか」。10泊11日の長期遠征となった今回、横浜から名古屋に移動した23日にこう話していた。ライバル巨人がリーグ3連覇となる優勝を決めた夜だった。大きな目標を失いながら、やるべきことまでは見失わなかった。負ければ自力で3位になる可能性が消滅する一戦。プレッシャーを突き破り、走攻守で光った。この日の金本が残したものは、本人の表現を借りればただの1勝に過ぎない。それでも、がけっぷちに追い込まれたチームにはとてつもなく大きな1勝だった。

 [2009年9月30日11時3分

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