5年目の若虎・鶴直人投手(23)が3日、右足甲骨折で離脱した能見の代役先発に浮上した。中日戦の8回に登場し、谷繁、代打野本、荒木を3人でピシャリ。今季初登板を、1回完全救援で飾った。能見先発が予定されていた9日広島戦(甲子園)代役の有力候補となった。チームの窮地で、プロ未勝利の右腕が一気に花を咲かせる。

 特に表情を変える訳でもない。2年前とは違う-。鶴は堂々と、ひょうひょうと右腕を振った。竜の完勝ムードが漂うナゴヤドーム。決して日の当たらないマウンドで、強烈なデモンストレーションを演じた。

 鶴

 今日は良いボールをどんどん使っていこうと思っていた。城島さんにも『首を振って自分の投げたいボールを投げてこい』と言われました。

 5点ビハインドの8回に今季初登板。8番谷繁は内角142キロ直球で詰まらせて遊ゴロ。代打野本は外角チェンジアップで左飛球。最後は1番荒木を内角140キロ直球で三ゴロに仕留め、わずか11球で1イニングを3人斬りだ。4月27日に1軍登録されたが、ここまでの5試合は出番なし。それでも試合前には「調整は大丈夫です!」とあくまで前向き。若虎らしく、キレのある直球を果敢に内角へ投げ込んだ。今季は2軍戦5試合で2勝1敗、防御率2・40。先発でも中継ぎでも“鳴尾浜一”と評価される実力は、1軍でも通用した。

 キレ味抜群のホップする直球が最大の武器。球児の後釜になれる-。大きな期待をかけられながら、故障に泣き続けた4年間だ。プロ初登板初先発した08年6月15日ロッテ戦(千葉)では1死も取れず、0/3回6失点で降板。高い壁にもぶつかり、1度は“挫折”も経験した。それから1年以上、鳴尾浜でもがいた。それでも、心は折れなかった。

 09年初の1軍昇格は、シーズンも終盤の9月27日中日戦(ナゴヤドーム)。その試合前練習中、初めて藤川のキャッチボール相手を務め、無言のゲキを受け取った。「取れる、と思ったボールが取れなかったんですよ」。自分が球の軌道をイメージして構えたグラブの上を、ホップしたボールが通過していく。これが超一流なのか-。向上心に火がついた。オフには久保田の自主トレに弟子入りを志願。1軍エキスを必死で吸収し、今がある。

 この日、能見が右足甲骨折で登録抹消され、登板が予想された9日広島戦(甲子園)の先発枠が空いた。山口投手コーチは「1つずつ階段を上っていきます。良い状態で上がってくれる」とステップアップを示唆し、代役先発も視野に入ってきた。「いつどこで投げても良いように、しっかり準備します」。鶴はバスに乗り込む直前、目をギラつかせた。

 [2010年5月4日11時43分

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