<広島5-4ソフトバンク>◇4日◇マツダスタジアム

 祝砲は空砲に終わった。ソフトバンク川崎宗則内野手(29)がプロ11年目で自身初となる初回先頭打者アーチを放った。前日3日の誕生日をみずから祝う1発は自己最多タイとなる4号。計3安打を放つなど孤軍奮闘した。チームは惜敗で再び交流戦8勝8敗の勝率5割に戻ったが、リードオフマンは元気いっぱいだ。

 広島の夕焼け空に向かって、1日遅れの祝砲を放った。前日に29歳になって初めての打席。川崎のバットは内角低めの難しい球を逃さなかった。「シャープに振りにいった」。芯でとらえた打球は右翼席までアーチを描く。プロ11年目で初となる先頭打者本塁打だ。初体験の快感に、一塁を蹴ると小さく右手を握った。ホークスの元気印は、走る速度をほとんど緩めずダイヤモンドを1周した。

 最高のスタートから3時間15分後、歓喜のエンディングは待っていなかった。接戦を落として逆転負け。それでも川崎は最後まで気を吐いた。1点ビハインドの9回2死走者なし。最終打者になることを拒み、右前打を放って猛打賞をマークした。バスへと引き揚げる顔に当然、笑みはない。「(3安打でも)残りの3打席で塁に出られなかったのが残念」。実際に凡退したのは2打席だけ。2回の第2打席で併殺打、7回は先頭で投ゴロにたおれただけに、悔しさが記憶を狂わせたのかもしれない。

 開幕は昨季の定位置だった2番で迎えたが、3月31日の西武戦からリードオフマンを任せられた。「自分の仕事は塁に出ること」。口癖のように自分に言い聞かせている。打率3割4分2厘を誇る「1番川崎」の効果は大きい。開幕から7試合で1番を務めて打率1割8分5厘と苦しんだ本多も2番でよみがえった。今や2割8分2厘まで数字を戻した本多は「2番だとムネさん(川崎)を見る時間がある。球の軌道も見られるし、勉強になる」と頼もしい先頭打者の存在感に感謝を口にする。

 帰り際の秋山監督は「いい展開でなあ。(1回に)2点取ったのに」とため息をついたが、視線を落とすことはなかった。選手会長の川崎にも暗さはなかった。5月9~13日に3連敗して以降、チームは連敗を喫していない。頼れる背番号52が先頭に立ち、必ずや反攻に転ずる。

 [2010年6月5日11時18分

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