<阪神3-4横浜>◇9月30日◇甲子園

 まさか球児が…。阪神守護神の藤川球児投手(30)が2点リードの9回、横浜村田に逆転3ランを打たれた。今季最多4万7027人が詰め掛けた本拠地甲子園での今季最終戦で、最下位チームに悪夢の逆転負け。これで自力優勝が消滅し、中日に優勝マジック1が点灯した。1日に広島戦(マツダ)に負ければ、中日の4年ぶりのリーグ優勝が決まる。残り6戦、奇跡は起きるのか。

 “野球の神様”はどこまで非情なのか。2点リードの9回無死一、二塁。阪神藤川球が投じたカウント2-1からの4球目、高めの149キロのつり球が、横浜村田にはじき返された。打球は左翼席に消えていく、逆転の3ラン。藤川球は着弾点を見つめたまま、表情を失った。今季最多の4万7027人で埋まった甲子園から一瞬、音が消えた。

 逆転優勝へ、そして引退する矢野を笑顔で送り出すため。絶対に勝たなければいけない一戦だった。9回、2点リードの場面で、登場曲はなじみのLINDBERGではなく、FUNKY

 MONKEY

 BABYSの「ヒーロー」。引退セレモニーを控える矢野の登場曲だ。今季56試合目の登板は、恩人にささげるマウンドになるはずだった。

 だが、制球が定まらない。微妙な判定に顔をしかめる。鳥谷が、城島が思わずマウンドに駆け寄り声をかけたが…。先頭の2番松本、3番内川にまさかの連続四球で無死一、二塁。そして4番村田に打たれた。9回裏、逆転を信じてベンチに座る藤川球の目はうっすら赤く、潤んでいるようにも見えた。「力がないだけ」と、守護神は自分を責めた。矢野に最高の花道を作りたかった。「それもできないぐらい力がないってことです」と、また自分を責めた。

 05年にセットアッパーとしてブレークした。以降、日本を代表する守護神に上りつめる過程を支えてくれたのは矢野だった。「打たれた時、一緒に悲しい、つらい思いをしてくれた唯一の相手」。試合後、引退セレモニーでは苦楽をともにした恋女房の隣に立った。ベンチ前で握手を交わした際には、少しだけ白い歯もこぼれた。その瞬間、何を話したのか?

 「いや、申し訳なかった、だけだから。また時間があったら話したい」。

 逆転優勝は大きく、大きく遠ざかった。優勝マジックは消滅した。残り6戦を全勝しても、中日のラストゲームの敗戦を祈るしかない。「(敗戦の)責任を取って最後まで仕事をやり抜きたい」。藤川球はそう口にした。【佐井陽介】

 [2010年10月1日8時59分

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