中日が4年ぶり8度目のセ・リーグ優勝を果たした。吉見一起投手(26)は3年連続2ケタとなる12勝で、投手陣の屋台骨を支えた。巨人から5勝。昨年CSで打たれた最大のライバルに1年でリベンジを果たした。登板した24試合のうち、巨人、阪神戦が13試合。毎週のように相手のエース格との投げ合いが続く中、勝ち星を積み重ね、チームを優勝へと導いた。

 ビールまみれの真っ赤な顔で喜びを爆発させた。エースとしての自覚を全うした1年。プロ5年目の吉見が、先発ローテの柱として開幕からチームを支え続けた。「今年は粘り強くいけた。巨人戦、阪神戦にたくさん投げさせてもらったことがうれしかった」。巨人から挙げた白星は目標だった5つ。「目標を達成できてよかった」と、打倒巨人に燃えたシーズンを振り返った。

 昨年のCSで味わった苦すぎる思い出が、今年の原動力だった。CSの第2ステージ登板前日。最悪のタイミングでドーピング疑惑が持ち上がった。「(球団)代表やNPBの人から大丈夫だと言われ、自分ではそう思っていた」。翌日、結果はシロとなったが、周囲の雑音は嫌でも耳に入った。そして試合ではラミレス、亀井に連弾を浴び、無念の降板。「勝って見返すしかない」という思いを晴らせず「最後まで投げきれなかったことが悔しかった。来年やり返すしかないと思った」と、打倒巨人を胸に誓った。

 そして今年。吉見は元日に勝負の神様として知られる大阪・箕面の勝尾寺で両手を合わせた。「去年は1年間ありがとうございました。今年も頑張ります」。願いをかなえてくれると言われるだるまを閉門ぎりぎりで買いそびれると、後日もう1度、勝尾寺を訪問。キリッとした顔のだるまを選び、愛車のダッシュボードに飾った。その時、書き込んだのが「巨人戦5勝」の文字だった。

 春には自身初の開幕投手の座をつかんだが、決して調子のいいシーズンではなかった。吉見は「ホント言うと、今年は開幕から1年間ずっとしんどかった。2ケタなんていくと思わなかった。12勝なんて出来すぎなんです」と打ち明ける。

 6月には背中に張りを感じ、出場選手登録抹消を申し出た。シーズン終盤の8月には、ひじの痛みを押し殺してのマウンドが続いた。そして優勝争いの真っただ中の9月上旬に2度目の登録抹消。「最後までヤマ場はある。先のことを考えたら、これ以上は無理」と、苦渋の決断を下した。

 1年間、不規則な中5日と中7日のローテを繰り返し、ライバルである巨人、阪神戦に投げ続けた。特に優勝争いが上位3チームに絞られた後半戦では、8試合中6試合が巨人、阪神戦。気の抜けない試合が続いたが「今年はその2チームに投げるのが僕の使命だと思っていましたから」と、嫌な顔1つ見せずマウンドに上がり続けた。

 かつて中日のエースだった川上憲伸(ブレーブス)の言葉が、常に心の片隅にあった。「負けていても、打たれても、マウンドでは堂々としていればいい」。時にマウンドでガックリと崩れたこともあったが、ポーカーフェースを貫こうと必死だった。

 思うように調子が上がらず、張り詰めた緊張感で顔に肌荒れが出た時期もあったが、そんな苦労もこの日の喜びが一気に吹き飛ばしてくれた。チームの主力として初めてつかんだリーグ優勝。1年間マウンドで踏ん張り続けたからこそ、勝利の美酒も最高の味だった。【福岡吉央】

 [2010年10月2日10時41分

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