ソフトバンク多村仁志外野手(33)が13日、対外試合で豪快2発だ。マツダスタジアムで行われた広島との実戦形式の合同練習で、2回に今季初アーチとなる左翼防球ネット直撃弾を前田健から放った。5回にも上野から左翼上段席に一打。東日本大震災で複雑な心境を抱えつつ、昨年チーム3冠王が仕上げの段階に入った。

 プロ野球選手としてグラウンドでは、多村が目の前のボールに集中した。まずは2回の1打席目だった。1死一塁。広島前田健の変化球をフルスイング。打球は左翼スタンドを越え、奥に張られてある防球ネットを揺らした。対外試合では今季初アーチとなる特大弾。バットマンとしての満足感は言葉に、にじんだ。

 「やっと良い感じで振れた。1本出るのと出ないのとでは違う」

 コメント通り、一振りでは終わらなかった。4回の2打席目は中前打。さらに5回だ。代わったばかりの広島上野の直球を仕留めた。左翼上段席へ、この日2発目をたたき込んだ。出場したオープン戦9試合でも打率4割と好調だったが、今季初の3安打も記録。ただ、例年と違うのは、試合後に会心の笑顔がなかったこと。トーンが沈むのも無理はない。

 「(東日本大震災の)被災者の方がいるので…。僕は、できることを、一生懸命やっていきたい」

 大地震が発生した11日。神奈川・横浜に残す夫人と子どもたちと、午後4時過ぎまで連絡がつかなかった。安全が確認できたのは、家族が自宅近くの避難所に到着したところだったという。自分の家族は無事だったものの、拡大する被害に心が晴れるはずもない。悲しみを胸に黙々とバットを振り続けていた。

 昨年は打率3割2分4厘、27本塁打、89打点で打撃3部門ともチームトップ。今春の打順は6番起用が多い。ポイントゲッターのバットが、いよいよ仕上がってきた。