<ロッテ4-6楽天>◇12日◇QVCマリン
楽天の選手会長がやってくれた。3月11日の東日本大震災の影響で延期されたプロ野球は12日、セ・パ6試合が同時に開幕。日本列島に球音が戻ってきた。星野仙一監督(64)率いる楽天はQVCマリンフィールドでロッテと対戦。1-1の7回、嶋基宏捕手(26)の3ランで逆転勝ちした。各地を移動しながらの調整を余儀なくされた上にチームを束ねる重責も担った正捕手が、最高の仕事で闘将に初勝利をもたらした。
春の強い逆光と白球が溶け合った。「覚悟を決めて直球1本で待っていた」嶋は、成瀬の初球、外寄りやや高め、137キロをつかまえていた。統一球特有の「ど芯」を食った高音。「芯に当たったんですがボールが見えませんでした。歓声で分かりました」。影となったクリムゾンレッドのスタンドに、高速ライナーがいきなり差し込んできた。
楽天好きのうねりが受け止めた。右拳を天に突いた。左翼を見やり、また突いた。本塁には岩村、ルイーズ、ネクストの中島が待っていた。冷静沈着な正捕手でも「鳥肌が立ちました」。顔がくっつくほど近づけ合いほえ合った。7回2死一、三塁からの勝ち越し3ランで楽天が勝った。
頼もしい選手会長になった。26歳は当初受けることに抵抗があった。だが山崎ら先輩から「お前しかいない」と推された。礒部-高須-岩隈。脈々と受け継がれてきた生え抜きの顔となった。「務まると思えない。助けをもらいながら、今後の人生にプラスにするつもりで」と受諾した。
新監督が求める野球像の把握に徹していた。「たかが1年やったくらいでレギュラーじゃない。正捕手確保が最優先」と決め込んでいた矢先、状況は一瞬にして変わった。兵庫で地震の報を聞き、選手を束ねる立場になった。一刻も早く仙台へ戻りたいという声が大半を占めた。だが手だてがない上、練習試合が詰まった日程では他球団に対して迷惑が掛かる。何より開幕日が定まらない。はざまで揺れた。勇気を出して星野監督の部屋をノックした。チームが今季スローガンに掲げる「真っすぐ」な思いが届き、仙台入りは実現した。
試合直前までみちのくから千葉まで来てくれたファンを励ましていた。「ワッペンをつけて『一緒に戦っている』という思いになった」と言った。スタンドに届いたのは“無形の力”によるかといえば違った。
打席に入る時、バットの先端で、ボックスの縦ライン内側20センチに、平行線を引いた。両足の爪先をその線に合わせ、絶対に踏み外さない。昨年会得した打撃の根幹だった。「爪先の角度を変えないことが大切。インコースが来て窮屈であっても、右足を絶対引いてはいけない。力が逃げてしまう」。この混乱の中でも本分を忘れず、場所を探し無休で下半身強化を続けた。長く人々の記憶に残るであろう本塁打には、たゆまぬ努力に裏打ちされた必然性があった。
グラウンドにとどろく「よっしゃぁぁあ!!」の叫びで、星野監督は嶋を迎えた。4回のクロスプレーでスパイクされ、「先は長い。代わるか」と言ったが、「行きます」と即答。その痛い手で成瀬の直球をしばき上げた。「あの瞬間に『嶋の底力』を見た」と、2日の慈善試合でのスピーチになぞらえた。地に足の着いた楽天第4代選手会長。プロ野球を前へ進める象徴になった。【宮下敬至】



