<ヤクルト2-2巨人>◇30日◇神宮

 ベンチから祈るように見つめた。9回2死一、二塁、代打谷佳知外野手(38)の同点打の瞬間、巨人東野峻投手(25)は何度も手をたたいた。抑えに転向していたが再びの配置転換。8日の広島戦以来の先発で、6回途中2失点(自責1)。勝利で飾ることはできなかったが、打線が見せた執念の粘りを目に焼き付けた。

 2度目の配置転換への思いを込めたのは、初球だった。外角低めに、オフから習得に励んできたチェンジアップを沈めた。「阿部さんのサイン通りです」。直球、スライダーを軸にしてきた男が、再スタートに選んだのは新球だった。解禁を決意した裏には、原監督からのメールがあった。先発再転向が決まった25日。「ウイニングショットを勉強して下さい」。締めの一文に記された言葉がグッと胸に響いた。「僕は任されたところで頑張るだけ。やるしかないんです」と、背水の覚悟で、先発に戻る決意を固めた。

 翌日、人けのないブルペンで黙々と腕を振った。球種はチェンジアップとフォーク。「ガシャン!」。ネットに突き刺さるボールの音だけが響いた。気が付けば2箱分、200球以上のボールを投げていた。「体がパンパンです」。首脳陣の期待に応えようと必死だった。

 2回以降、再三ピンチを迎えたが、要所を締めた。6回に勝ち越し点を奪われ降板。熱投から覚めたように、ゆっくりベンチに腰を下ろした。ピンチを抑える度に上げた雄たけび。闘争心むき出しの「燃える男」が帰ってきた。【久保賢吾】