<西武4-8楽天>◇16日◇西武ドーム

 振り切ったバットを、確信とともにゆっくりと地面に置いた。西武中村剛也内野手(28)が93試合目にして両リーグ一番乗りで30号の大台を突破した。6回無死一塁。初球134キロをミスショットしなかった。依然シーズン46発を超えるスピード。前日15日に28歳になった自分への祝砲でもあったが、チーム状況が状況だけに「(30号という数字は)どうでもいい。感触は打った瞬間、でしたけど…」と口は重い。

 楽天岩隈から初本塁打。意外なようだが、実はこれが希代の長距離砲の打撃哲学を象徴している。「1試合のうち1球、2球の甘い球をどうやって仕留めるか。厳しいボールを追っかけると、打撃自体が崩れてしまう。甘く来ない時もあるけど、その時は投手の勝ち。切り替えてやるしかない」。難しい球は打てなくてもいい、というシンプルな極論。抜群の制球を誇る右腕相手にスタイルを崩さなかった結果が、41打数目の初アーチともいえる。

 岩隈、中島と米球界志向が強い選手が両チームにいることもあり、ネット裏にはメジャー5、6球団のスカウトの姿があった。彼らのお目当てからの一撃。ただ、反応は素っ気ない。ジャイアンツ嘉数スカウトは「彼の名前はみんな知ってます。いまさら驚きませんよ」と、半ばあきれたように笑った。打った打たないで騒ぐ選手ではない。ある意味でスカウトたちも一目置いているということだ。

 こん身の一振りも実らず、痛恨の逆転負け。「結局負けたんで(本塁打に)あまり意味はない。また明日です」と顔を上げた。チームの浮上まで、一喜一憂することなく飛ばし続ける。【亀山泰宏】