<ヤクルト3-9阪神>◇29日◇神宮

 よう来てくださった。開幕して1分。猛虎の新たなリードオフマン西岡剛内野手(28)が放ったプレーボール中前打が、開幕猛攻撃祭りの号砲だった。Tシャツによる「出塁せよ」指令に3安打2打点の大当たりでこたえた1番打者。和田阪神は開幕戦では球団最多の17安打で9得点の快勝、大勝だ!

 ものすごーく気が早いが、ここは大きな声で叫ぼう。「優勝や~!

 日本一や~!」。

 白球が糸を引くように右前へと伸びていく。二塁に達した西岡は神宮の夜空に向かって両腕、両手を解き放つ。7回、2点差に広げ、なおも2死二、三塁で打席へ。松岡の投じた内角の沈む球に、腕をたたみながら右前へ運ぶ。2点適時打で勝利を決定づけ、デビュー戦で猛打賞の大活躍だ。

 西岡

 難しい場面で(直前の)新井さんが気持ちで打った。伝わってきたし、それに負けない気持ちでやりました。

 開幕戦で主役を張り、ヒーローインタビューで「ファンの声援に押しつぶされそうになりました、大きすぎて。1つ取りましたけど144分の1。必死のパッチでやります!」と声も上ずる。和田阪神2年目の初陣は西岡の独壇場だった。

 神宮球場に着くと、和田監督から手渡されたものがあった。ピンクで「出塁せよ!」とプリントされた高校野球の黒いTシャツだ。数日前、センバツ大会中の甲子園を通り掛かった指揮官の目に偶然とまったアイテムを、関係者を通じて購入。ユーモアに富み、心憎い演出に笑みがこぼれる。意気に感じた。魂を揺さぶられた。

 1回だ。トップバッターは館山の初球を豪快に空振り。「初球は、思い切り振り抜きたいと思っていた」。緊張がほぐれた。3球目。外角直球を中前にはじき返して出塁した。先制ホームを踏み、ナインの士気を高める2点を奪った。

 西岡

 初回に自分が塁に出て、点が入ったことが一番の仕事です。「何とか塁に出ろ」という、監督指令も出ていましたから。(Tシャツに)変なプレッシャーがかかりました。

 恩師に誓う全力プレーだった。阪神入りが決まり、昨年12月末には父邦昭さんとともに奈良・大和郡山市に足を運んだ。中学時代にプレーした郡山シニア・吉田正興監督(77)の自宅を訪れて阪神入団を報告。「タイガースは大変やろ」と心配されると、きっぱり言った。「覚悟しています。結果を出すしかないです。一生懸命、やります」。ロッテ入団後も、オフに欠かさず顔を合わせてきた。けじめの儀式ではロッテ、ツインズのユニホームもプレゼントした。元来の右打者から左打者も志した中学時代の師の前で腹をくくった。

 昨季、チームは5位に終わり、貧打解消の目玉補強として入団した。西岡は言う。「3本打ったことよりチームの勝ちが一番」。新戦力が期待通りに働き、開幕戦5連勝。最高のスタートを切った。【酒井俊作】