<巨人6-5ヤクルト>◇1日◇東京ドーム

 巨人の4番阿部慎之助捕手(34)が5回に25号2ランを放ち、東京ドーム通算176本目として同球場の歴代本塁打単独トップに躍り出た。

 ミクロの勝負を制したのは阿部だった。VS石川。最初の対戦から続いていたアウトローの攻防だった。1、3回とチェンジアップを振らされ三振していた。「2打席、全く合わなかった。立つ位置を投手寄りにした」と細工を施した、5回の第3打席だった。4球目。ボール半個分だけ中に入った直球だった。届く。バットを下から差し出しバックスピンをかけた。「狙って打ったわけじゃない」と言う東京ドーム176本目は、左翼席への美しい2ランだった。

 巨人に入団して13年目で、強打者たちの頂点に上りつめた。「そうなんだ」とあまり興味なかった。資質だけで成しえた数字ではない。34歳になった今でも、1日も欠かしたことのない粋な流儀がある。

 ヘルメットのつばに、その証しが表れている。一部分だけ黒色が剥げ落ち、くすんで鈍色になっている。フリー打撃の際、打撃投手に対し「よろしくお願いします」「ありがとうございました」と、ヘルメットを脱いで丁寧に頭を下げる。右手で同じ場所を触って脱ぐから、そこだけ変色する。「今日もナイスボールだった」と声をかけて練習が終わる。

 誰に対しても姿勢は変わらない。若い打撃投手が「阿部さんがあれだけ打つのは、当たり前だと思う。巨人で一番打っている人が、一番、心を込めて打ってくれる」と明かす。ベンチ裏、ベンチの前。無造作に置かれている「10」のくすんだヘルメットを見て、やりがいをもらうスタッフは多い。

 1軍に上がりたての選手に「せっかく呼んでもらったんだ。感謝の気持ちを持ってプレーしよう」と諭す。それは自らが入団から貫いているポリシーでもある。この日の試合前も同じだった。丁寧にあいさつし、バットを心持ち短く持って丁寧に打ち、試合に入った。そして本拠地176本目の放物線を、練習通りにレフトスタンドへかけてみせた。【宮下敬至】