<中日5-6阪神>◇10日◇ナゴヤドーム

 勝つとドローでは大違いだ。自力優勝の消滅から一夜明け、首の皮一枚の虎が延長12回の激闘を何とか制した。1回に先制打で17試合連続安打を決めたキャプテン鳥谷敬内野手(32)が12回1死三塁でも前進守備の二遊間を破る決勝打。4回に3-3の同点になってから再三の好機を逃しに逃し、痛恨のドローや最悪のサヨナラ負けムードも立ちこめる中で、白星をたぐり寄せた。

 一塁ベース上、どこまでもクールな表情が鳥谷らしい。ついに…。4時間55分の激闘に決着をつけたのはキャプテンだ。

 「ピッチャーがずっとしのいでくれていたし、なんとか点を取りたかった」

 前夜、自力Vの可能性が消滅。一夜明けたデーゲームは痛恨の拙攻にも泣いた。2回に3点目を奪ってからホームが遠い。9回無死一、二塁から今成がバント失敗の捕邪飛。1死一、二塁のフルカウントから走者がスタートを切るも、大和が内角直球に手を出せず三振ゲッツーに終わった。

 救援陣が耐え、最終回に巡ってきたラストチャンス。12回表1死三塁で鳥谷は中日高橋聡の真ん中149キロ直球を確実にミートし、前進守備の二遊間を鋭いゴロで抜いた。「チャンスだったので、ストライクゾーンに来たらいこうと思った」。虎戦士の意地をバットに結集し、傷だらけの虎を救った。

 不動の3番打者として試合を決めた。これが理想型だ。この日は5回1死二塁で歩くなど2四球。現時点で66四球はリーグ最多だが、満足感はない。

 5月上旬、スポーツ新聞に巨人阿部のコメントが掲載されていた。「鳥谷との勝負だな」。移動中の新幹線で記録欄をチェックし、言ったという。四球数を争うことをモチベーションにして、一撃必殺に向けて待ちの姿勢を強める。そんなWBCキャプテンの言葉を伝え聞き、鳥谷は「じゃあ、四球数でも負けるな」と冗談まじりに笑った。そして、語気を強めた。

 「阿部さんと自分は違う。阿部さんみたいに、どんなボールでも打てるなら打ってるよ。自分の場合、ただ単に打てないボールを打っていないだけだから」

 自分に厳しい男だ。もともと四球で後ろにつなげばいいなんて、考えていない。走者がいる場面では、打って返すことがベスト。信念を貫き、この日は2打点を決めた。1回1死一塁で走者大和とランエンドヒットを決め、一塁手のわずか左を抜く強烈なゴロが先制適時打となった。17試合連続安打となる二塁打でナインを勢いづかせ、最後の最後に決勝打。まさに主軸の働きだった。

 「巨人どうこうじゃなく毎日、目の前の試合を勝てるようにやっていくだけ」

 地道な1歩1歩の先に巨人の背中がある。たとえ険しい道のりでも、鳥谷はナインを全力で引っ張っていく。【佐井陽介】

 ▼鳥谷が7月17日巨人戦からの連続試合安打を17に伸ばし、自身最長の18試合(11年9月6日広島戦~同29日ヤクルト戦)にあと1と迫った。この17試合で68打数27安打、打率3割9分7厘。シーズン通算打率も、連続試合安打開始前の2割5分1厘から2割7分8厘と上げてきた。球団最長は11年マートンの30試合。