マー君の落札額はたったの20億円!?

 日本野球機構(NPB)と米大リーグ機構(MLB)は27日(日本時間28日)、ニューヨークのMLB本部でポスティングシステム(入札制度)の新制度について前日に続く交渉を行ったが、合意に至らなかった。MLB側から入札額の上限を約20億円に設定するという新たな案が提示された模様で、決着はまた先送りとなった。今後は、米国の休暇期間が明ける12月2日(同3日)以降に電話交渉を再開する予定。新制度で移籍する可能性がある楽天田中将大投手(25)への影響が心配される中、事態は再び混迷の様相を呈してきた。

 2日間にわたる交渉でも、着地点は見いだせなかった。NPBを代表して出席した伊藤修久法規部長は「昨日に引き続き、双方の考え方やアイデアについて率直に話し合いました。合意はなかったですが、引き続き話し合いを続けていくことを確認し合いました」と、経過を説明するにとどまった。

 直接交渉でMLBが内部で抱える複雑な事情が浮き彫りになった。入札制度を巡り、資金の豊富な球団と、高額な入札金を捻出できない小さな地方球団の対立が表面化。入札金をぜいたく税に含むか否かの議論になると大リーグ選手会も黙っていなかった。それぞれの思惑が交錯し、協議はなかなか前に進まなかった。

 この日の交渉中も、MLBのロブ・マンフレッド最高執行責任者(COO)が随時、全球団、選手会側と何度となく連絡を取り合った。結局、各団体の利害が一致する結論は見つからず。交渉を終えた伊藤法規部長は「3者(資金力の豊富な球団、乏しい球団、選手会)を満足させる案を作ることは、非常に難しいことが分かりました」と感想を残した。ニューヨークでの交渉内容は、すぐに日本の12球団の代表者へメールで伝えられた。

 その中で、MLB側から驚くべき提案があったことも分かった。資金力で劣る地方球団でも楽天田中のような大物選手の入札に参加できるよう、落札額に上限を設けることを要望したという。複数の球団が上限額で入札した場合、選手はそのすべての球団と交渉できるというもの。ダルビッシュや松坂は5000万ドルを超えたが、球団関係者によれば「(提示された上限は)その半分にも満たない額」で、2000万ドル(約20億円)程度とみられる。一時はNY紙で、田中の入札額が75億~100億円になる見通しとの報道もされただけに、その開きはあまりにも大きかった。

 上限の設定は日本側にとって受け入れがたい提案。楽天を含む多くの球団が拒否反応を示し、当初目指していた今月中の合意を断念した。MLBが土壇場でNPBを困惑させる案を出してきたのは、国内の意思統一が難航していることが最も大きな要因。交渉決裂という最悪の事態を避けるべく、まずは米国内の意見調整の行方を見守りながら電話での交渉を継続する。

 もっとも、MLBの混乱を招いた責任は日本側にもある。日米合意寸前だった今月1日、日本の選手会の反対により協議は約2週間中断。この間に情勢は悪化した。NPB井原事務局長は「これまではMLBの状況を伝え聞く形だったが、実際に(現地で担当者が)話をして状況が分かった。(合意の)タイミングを失った」と話した。好機を逃した代償は大きかった。