<オープン戦:中日4-2阪神>◇23日◇北谷

 阪神福留孝介外野手(36)が、オープン戦初出場でマルチ安打を放った。5番指名打者で臨んだ古巣中日戦。第1打席のファーストスイングで左腕岡田から左前打を放つなど、首位打者&MVPに輝いた06年の打撃感覚を取り戻しつつある。ポイントゲッターとして期待される男が逆襲のシーズンへ好発進だ。

 今年最初に相対した投手は古巣中日の将来を担うだろう左腕だった。過去対戦はなし。だが、あいさつはいらない。福留は自分のことだけに没頭していた。初球、ストライクゾーンにきた直球を迷わず打った。

 「実際に打席の中で自分がどういう反応をするか。対ピッチャーというわけではないんで。ファウルにならなかったというのは、まだいい方だとは思います」

 打球は中堅と左翼の間にライナーで弾んだ。他の打者が差し込まれた岡田の速球をはじき返した。開幕へ向けて最初のハードルをクリアした瞬間だった。

 さらに第2打席は2年目右腕若松の2球目に反応。変化球で完全にタイミングを外されたが、足腰はしっかりグラウンドをつかんでいた。しぶとく一、二塁間へ。

 屈辱のシーズンから年が明けてのキャンプ、当初は手術した左膝への懸念もあって2軍スタートも検討された。だが、福留はそんな状況に反発するように初日から500スイング超の猛烈な振り込みを始めた。

 「とにかく振らないと始まらない。マメが痛いよ」

 今キャンプ中、福留は手のひらにできたマメを見つめて、少しうれしそうだった。今も忘れられないのは99年、プロ1年目のキャンプ。星野監督の下、早出から特打、特守、夜間練習と文字通り野球漬けだった。ホテルの部屋に戻ると、あとはベッドに倒れ込むだけ。あっという間に朝が来た。目覚めると両手がバットを握る形になったまま動かなかった。お湯に浸して1本、1本、指を開くことから1日が始まった。

 「手が固まって動かないんだよ。まるで、ドラえもんだよな(笑い)」

 原点に返った2014年。振って、振って、振りまくったキャンプは正しかったのか-。この日、1本目はややつまった。2本目はぎりぎりのところでのヒットだった。不満はある。ただ、悪くない。わずか2スイングで球場を後にした福留だが、そこには、宜野座での、いく千ものスイングが凝縮されていた。【鈴木忠平】