下克上の始まりぜよ!

 阪神ドラフト6位岩崎優投手(22=国士舘大)が一気に先発ローテ候補に浮上した。1日の練習試合ロッテ戦。2番手で登板し、3回無失点で3奪三振。安芸キャンプ中から、これで実戦通算3試合9イニング無失点だ。中西投手コーチは次回の先発起用まで明言した。巨大財閥を一代で築いた岩崎弥太郎の故郷、高知・安芸からドラ6左腕が成り上がる!

 雨が強くなり、黒土の上に水が浮き出した。スタンドに屋根のない安芸市営球場。それでもファンは、藤浪の次に登場した岩崎に熱い視線を送った。6回2死二、三塁。こん身のストレートを代打ハフマンの体近くに投げ込んだ。ゆったりしたフォームから、内角を突くクロスファイア。見逃し三振でピンチを切り抜けると「岩崎~!」とスタンドから声が上がった。体が冷える中、見守った虎党へ、なにより1軍首脳陣へ自らの投球を見せつけた。

 「自分は自信を持たないタイプなんですが、低めに(球が)行ってれば、ある程度通用した」

 清水のリードに身を任せ、主力打者の内角も臆することなく攻めた。ハフマンの前の鈴木は得意球のシンカーで空振り三振に仕留めた。「天気、1軍レベルの選手、助っ人外国人の方と対戦できて勉強になった」。試合後、マウンド上と同様に淡々と謙虚な言葉を並べた。投球内容とのギャップの大きさが新鮮に映る。

 昨年の指名あいさつでは、担当の中尾スカウトが「化ける可能性は十分ある」と話していた。サッカーで有名な清水東から東都2部リーグの国士舘大。全国的には無名の存在で、1月の入寮時は「はい上がれるようにしたい」と下克上を誓っていた。

 キャンプは岩崎弥太郎の故郷、高知・安芸キャンプで汗を流し、実戦2試合を6回無失点。下級武士から三菱を築いた弥太郎のように、反骨心をたぎらせた岩崎の報告を受けた1軍首脳陣が生チェックの舞台を用意。この日の3回も加え9回無失点の“完封”となった。

 和田監督も目を丸くした。「前に飛ばない感じでスイングさせていなかった。先発をさせてみたいなという感じを受けた」。次回は先発起用でその適性を見極めることが内定。中西投手コーチは先発ローテ入りの可能性に「あまりにも他の左(投手)がもたもたしてたらある。2回りぐらいは抑える」と言い切った。一気に先発枠を争う候補の1人にまで、成り上がった。

 岩崎

 今日はうまくいったけれど、今後はわからない。

 浮かれることなく、次のチャンスへ気持ちを集中させた。ドラフト6位左腕の前に1軍への道が見えてきた。【松本航】

 ◆岩崎優(いわざき・すぐる)1991年(平3)6月19日、静岡県生まれ。清水四中で軟式野球を始める。エースで4番だった清水東3年夏は静岡大会2回戦敗退。東都大学2部リーグの国士舘大では4年間で通算10勝8敗。シンカーやダルビッシュの握りを独学でまねたカーブを操る技巧派。184センチ、81キロ。左投げ左打ち。背番号67。

 ◆岩崎弥太郎(いわさき・やたろう)1834年(天保5)に土佐国安芸郡に生まれる。極貧の地下(じげ)浪人の家だったが、学問に励み、土佐藩参政の吉田東洋に見いだされた。19歳のとき江戸に出る。明治維新後は藩の事業を譲り受けて大成功。「海洋王」と称され三菱財閥の祖となった。安芸市には生家、弥太郎の像がある。