徳俵から巻き返せ!

 巨人原辰徳監督(55)が20日、サッカー日本代表の底力に期待した。東京ドームで行われた全体練習前、ワールドカップ(W杯)1次リーグのギリシャ戦をテレビ観戦。次戦の勝利しか決勝トーナメント進出の可能性がなくなった状況を「最後の最後、力を出せる場所」と、相撲の徳俵に例えた。自軍が何度も修羅場を突破してきたように、日本代表の頑張りを信じる。

 サッカー日本代表は、確かに徳俵に足がかかった。「朝が待ち遠しかった」と全力で応援した原監督は、「勝ってもダメなケースもあるな」と厳しい現実を承知した。「徳俵か」の問いに答えた。「徳俵は、言葉ほど簡単なモノではない。本当に最後の最後ではあるけど、あそこだけ『角』になっている。力を出せる場所だ。力を利用して、どとうのごとく押し返せることもある」。徳俵からの逆襲。修羅場で用い、鼓舞してきた大切な言葉だ。

 中日に3連敗して迎えた12年CSファイナルステージ第4戦の前。「我々は、徳俵に足がかかった。本当の力を見せよう」と伝えた。13年もそうだった。楽天に3勝され迎えた日本シリーズ第6戦の練習前。円陣で「田中は2回目だから必ず打てる。まだ徳俵に足が乗った状態じゃない。ジャイアンツはここから強いんだ!」と伝えた。切羽詰まった選手の心を解き放ち、難局を乗り越えてきた。

 ブラジルに思いを託していた。原監督は、ギリシャ戦を実況した日本テレビ・田辺研一郎アナに革靴を贈った。「オレの魂を預ける。映らなくとも、履いてくれるかな」との言葉を添えた。田辺アナは意気に感じ、日本で慣らしてブラジルに渡り、大一番を伝えた。「堂々とした、立派な実況だったよな」。足の裏に宿る底力を信じている。

 サッカーをリスペクトしている。「野球と違い、あのフィールドに、誰がどういてもいい。一塁、三塁手なんていない。いかに素早く、思い描いた所で攻撃し、守りができるか」と、攻防一体の難しさに敬意を表した。その上で、接戦を拾いまくって交流戦王手をかけた自軍を「いろんなものがかみ合わないと、小差の勝利は難しい。でも点取りゲームだから。1点でも本塁を多く踏んだチームが勝つんだ」とみた。球技が持つ普遍の真理は、日本代表にも通じる。【宮下敬至】

 ◆徳俵

 大相撲で使う土俵の、東西南北4カ所にある出っ張り部分のこと。全長は約70センチ。土俵の円周から外に飛び出し、ギリギリの場所であることから、ピンチに陥った様子を「徳俵に足がかかる」と表現する。かつて相撲は屋外で行われていたため、完全な円の形で土俵を作ると、雨水がたまる恐れがあり、水はけの目的で徳俵を作ったとされる。