<阪神2-3巨人>◇23日◇甲子園

 巨人が一瞬にかける「仕事人」の足技で、2位阪神に競り勝った。足のスペシャリスト鈴木尚広外野手(36)が、同点の9回に一塁走者・亀井に代わり代走で出場。1死後、村田の3球目に二盗を決め、4球目には捕手の梅野がわずかに前にはじいたスキを突き、三塁を陥れた(記録は暴投)。迎えた2死満塁から、暴投で貴重な勝ち越しのホームを踏んだ。坂本、阿部、長野、村田の「枢軸」が無安打の中、伏兵の活躍で大きな1勝をつかみ、ゲーム差を2・5に広げた。

 甲子園の歓声が、どよめきと怒号に変わった。9回1死一塁、村田への3球目だった。一塁走者の鈴木がスタートを切った。捕手の梅野から、矢のようなボールが二塁に送られる。「タイミング的には分が悪かったけど、スライディングの技術で補えた」。二塁上本がタッチに向かうと同時に、ベースに向かって“飛んだ”。タイミング的にはアウトだったが、判定はセーフ。スピードに乗った高度なスライディング技術が、塁審の手を広げさせた。

 たたみかけたのも、鈴木の足だった。直後の4球目。捕手の梅野が右打席の前、やや三塁方向にボールをはじいた。その一瞬を見逃すはずがなかった。抜群のスタートで三塁に進塁(記録は暴投)。「人より先に塁を狙うことを心掛ける」鈴木にとって、最高の見せ場だった。「三塁にいけたのが良かった。二塁と三塁では(相手の)プレッシャーが大きく違うので」。自らの足で演出した2死満塁の場面、2度目の暴投で決勝のホームを踏んだ。

 9回裏、左翼の守備につく鈴木の背から「鈴木コール」が起こった。いつもなら、打点を挙げた選手に送られるコールだが、決勝点をもぎ取ったのは誰かを物語るシーンだった。原監督も「あの回が勝負のイニング。(鈴木は)最高のランナー。存在感がある」とべた褒めだった。

 坂本、阿部、長野、村田の「枢軸」は無安打でも、先発小山が6回2失点と粘って、救援の香月も2回を無失点。「伏兵」の勝利の執念が連敗を止め、阪神との差を2・5に広げた。原監督は「こういう風な状態で、これからも戦うつもりでいます。この言葉をどう受けとめ、どう発奮するか」と結んだ。主力へカツを入れ、チームを引き締めた。【久保賢吾】