<巨人3-1広島>◇2日◇東京ドーム

 エースも戻ってきた。先発した巨人内海哲也投手(32)が、5月29日楽天戦以来となる2勝目を挙げた。持ち味の駆け引きと粘りで、好調カープ打線を6回1失点に抑えた。4番阿部の2ランで勝ち越した後の7回も続投だったが、投球練習中に左足をつり降板。大事に至らず、試合後は「10勝します」と誓った。プロ入り後初めての経験となる左肩痛で、久しぶりにファーム暮らしを経験。3男1女の大家族にしか歩めない、復帰までの道のりに「潜入」した。

 神妙な顔でお立ち台に立った。内海はまず「今は大丈夫です」とファンに報告した。7回、投球練習を1球した後、左足を伸ばすしぐさをした。そのままベンチに下がり、西村にマウンドを譲っていた。「予兆なく、つる感じがあった。我慢しようと思ったが今後もある」と自重したのには理由があった。「頑張らなくっちゃ『何でいるの』と言われる。2桁を諦めていない」。2年連続最多勝の左腕が、2勝目ごときで喜ぶはずもなかった。

 いつもの投球だった。1回から6回まで毎回走者を出した。「反省ばかり」と言ったが、犠飛による1点にまとめた事実が『内海に分があり』を物語っていた。「いいバランスもあった」と、再調整中に見直した投球フォームが下支えした。右足を上げ軸を作り、体重移動を行う瞬間、股関節の微妙な動作で「間」をつくった。クロスファイアの食い込み、スライダーの軌道、チェンジアップの抜け。三種の神器に躍動を与え、バットの芯を外した。

 最後まで淡々としていた。「うれしいけど、物足りない」と、ブルペンへ強いた負担をわびた。原監督は「攻めてから粘った」と本来のスタイルを評価。もちろん「本来なら、もう1回だった」とも加えた。エースが巻き返す。

 内海の復活は、家族とともにあった。6月5日に左肩痛で登録を抹消。2軍でのリハビリ生活の傍らには、いつも聡子夫人と4人の子どもたちがいた。「家族がいるから自分も頑張れる。嫁さん、4人の子供たちは僕が幸せにせんとあかん」。肩の不調は先発ローテ定着後初めてでも、“ビッグダディ”に不安がっている暇などなかった。

 ジャイアンツ球場に通う日々は久しぶりだった。午前6時前に起床。7時には球場に入って練習した。体を追い込んだ後には、子供たちが待つ幼稚園へ急いで向かった。「今日、2回目のシート打撃や!」。次男旺太君ら園児を相手に、巨人のエースが打撃投手を務めた。「疲れるはずないやんか。子供たちの笑顔を見たらな」と“連投”で心身の疲労を癒やした。

 内海には、もう1つの家族があった。中学時代、同じクラブチームに所属し、07年オフからトレーナー契約を結ぶ保田貴史氏。一家で内海の自宅近くに引っ越し、全面的にバックアップしてくれた。「また、ここからはい上がるで」。自分のことのように落ち込む保田氏に、声を掛けた。故障に責任を感じ、つらい思いをさせた。だから、ともに前に進もうと誓った。

 6月20日、2軍でリハビリ中だった沢村も誘って、焼き肉店で“家族会”を開いた。「いつも、ありがとう。これから、拓一(沢村)と一緒に優勝に貢献します」と締めた。そんな大黒柱の背中を、優しく見守ってくれたのは家族だった。1軍復帰2戦目の7月26日中日戦、登板前に聡子夫人から長文の「LINE」が届いた。内容は明かさなかったが、「つらいのは自分だけちゃう。嫁さん、子どもたちもそう。だって、家族やから」と熱いものが込み上げた。体には力が宿った。支え、時に支えられる。困難はみんなで乗り越える。【久保賢吾】

 ▼内海が今季2勝目を挙げ、プロ通算では110勝目。巨人で通算110勝は15位タイだが、左腕では中尾209勝に次いで高橋一に並び2位の勝ち星となった。この日は阿部がV打。内海が勝った試合のV打を見ると、(1)ラミレス、阿部13度(3)坂本10度(4)小笠原、長野9度。阿部のV打は13度目で、ラミレスと並んで最も多い。