横から160キロ!

 阪神にドラフト2位指名された東海大相模・一二三(ひふみ)慎太投手(18)が21日、大阪市内のホテルで仮契約を結んだ。契約金6000万円、年俸720万円。オーバースローからサイドに転向して臨んだ今夏の甲子園では準V。目標はでっかく、あこがれの同じサイド右腕、ヤクルト林昌勇(34)の160キロ超えだ。(金額は推定)

 球速の話題になると一二三の両目が輝き出し、舌が滑らかになった。

 「サイドで150キロを出したので、次は155キロ以上を出せたら。ヤクルトのイム(林昌勇)さんを見て、速いな、すごいなと思った。なるなら、これくらいを目指したいです」

 18歳はまるで青天井の可能性を自認しているよう。当然のように140キロ、150キロを出すようになった近年の高校生の中でも一二三は規格外の存在だ。

 今春のセンバツはドラフト1位有力候補の本格派オーバースローとして登場した。しかし、夏には別人のような投げ方を会得して甲子園に乗り込み、準優勝。決断したのは今年5月。フォームを崩し、制球難に陥った。

 「変えたのは遊び半分です。周囲がどう言おうと自分は自分。第3者は関係なかった。絶対、結果を出すから見ておけよ、と。悩まなかったです」

 強い気持ちが、無謀にも思える変身を成功させた。信念以外に一二三を支えたのはあるビデオ映像だった。サイドスローでは日本球界最速の160キロを誇るヤクルトの守護神、林昌勇の投球フォームだ。

 急造サイドの自分との違いは明らかだった。「160キロを出したときの映像を実際に見たら速かった。違うなと。スローで再生したりしました」。林昌勇が体全体を使って投げているのに、自分は手投げ。「下半身を強くしたらもっとスピードが上がる」。メカニズムだけでなく、自覚している下半身や体幹の弱さを解消すれば、あこがれの存在に近づけると確信している。ヤクルト由規が持つ161キロの日本人記録更新にも「(意識は)あります!」ときっぱり言った。

 交渉に同席した菊地東日本統括スカウトは「巨人にいた斎藤みたいになれる能力が十分にある」と横手投げの適性に太鼓判を押す。沢村賞3度受賞の斎藤雅樹もプロ入り後にサイドに変更し、球史に残る大投手に成長した。期待の大きさを表している。

 「秋山さんは年齢が近いし、1年目から活躍されてて、目標になる人。自分もああやって投げられるようにと常に考えています」

 高卒新人で4勝をマークした先輩秋山のように1年目からのブレークも夢物語には聞こえない。打者を震え上がらせる剛速球を身につけ、スピード出世を目指す。【柏原誠】