ボクシングのロンドン五輪金メダリスト、村田諒太(31=帝拳)の世界初挑戦が決まった。5月20日、東京・有明コロシアムでWBA世界ミドル級王座決定戦で、WBA同級1位アッサン・エンダム(フランス)と相まみえる。3日に都内で行われた発表会見から、気になった言葉を取り上げたい。

 「ビッグネーム、過去のグレートになると、ベルト以上になしえたことが大きい。ただ挑戦するだけで、僕の中で比べることが出来ない、というのが正直なところ」

 質問は「尊敬するフェリックス・トリニダードやバーナード・ホプキンスらも巻いたミドル級のベルトに挑む気持ちについて」だった。先人の偉大さを深く知るからこそ、素直な謙遜が口から漏れた。

 村田の“ボクシングマニア”ぶりは、業界内では有名だ。専門誌では「ボクシング・マエストロ」の異名を授かったこともある。一流アスリートは過去の記憶に関して突出しているケースが多々あるが、村田もしかり。有名王者に限らず、階級も問わず、その脳内データベースには、おそらく1000試合以上の記録が収められているのではないか。日常の取材でも、技術的な会話で過去の事例を引いて、答えてることが多い。そして、その見方は非常に面白いし、記者としても勉強になる。

 だからこそ、誰よりも深く、重くミドル級の世界のベルトに挑戦することの意味、困難さも分かっているのだろう。決して大言は出なかった会見だったが、それが逆に覚悟をにじませた。「多くの方にサポートに支えられてキャリアを進めている。恩恵に結果で応えたい」。そんな発言にも、決意が凝縮していた。

 帝拳ジムの本田会長は「自分の事も相手のことも、誰よりも分かっているのが村田。頭と体力に期待したい」と話す。学習能力の高さだけでなく、「頭」としてはその記憶力も間違いなく武器の1つだと思う。

 「こういうプロの世界とか、いろいろなボクシングの世界、世間を見ることが出来た。あの時点で辞めていたら、見ることが出来なかった世界。ボクシングが好きな1人間として、ここまで長くやることが出来ていることに対して、うれしく思います」

 ロンドン五輪の金メダルでアスリート人生を終えなかった決断を、会見でこう振り返った。ボクシングが好きだからこそ、新たなデータベースに更新してきた情報は豊富だっただろう。プロという経験が加わった「頭」で、勝利を期待している。【阿部健吾】