初場所も15日で中日。前半7日間で最も印象に残っているのは、4日目の十両宇良の取組だ。173センチ、128キロの自身より体重が56キロも重い豊響の突き押しを、土俵際で腹を突き出し弓なりになった場面には、観客だけでなく力士らも驚きを隠せず、支度部屋がどよめいた。

 ほぼ体格が変わらない小兵業師も舌を巻いた。175センチ、121キロの十両里山は「びっくりした。あれはできない。腹を押されたら普通は負けですよ。それを力を吸収して反撃するなんて。宇良は体重が増えても動きが鈍らないね」と感心。173センチ、114キロの幕内石浦も「僕はあそこまで体の柔らかさがないから、あの残し方はできない」と目を丸くした。

 土俵際の粘り、逆転、小柄な力士の奮闘は相撲の醍醐味(だいごみ)だが、心配なのはケガ。宇良が粘った瞬間、15年春場所で遠藤が左膝を負傷した一番が頭に浮かんだ。5日目に“宇良バウアー”が掲載された本紙写真を見て「すごいな」とうなっていた日馬富士は、大きくない体を酷使して綱を張っているが、7日目から休場となった。里山は言う。「ケガとは、紙一重だから」。人生を懸けたギリギリの攻防、だからこそ胸を打つ。【木村有三】