<新日本:広島大会>◇7日◇広島サンプラザホール◇3000人

 ノアの杉浦貴(38)が三沢光晴さん(享年46)が亡くなった因縁の地、広島でのG1クライマックス(G1)初勝利に失敗した。G1・3度優勝の天山広吉(38)のアナコンダバイスに12分42秒、ギブアップ負け。右ひざ蜂窩(ほうか)織炎で1週間の入院を余儀なくされ、退院したのが前日6日という準備不足を克服することはできなかった。

 杉浦がアウェーマットに沈んだ。開始から天山のラリアット、モンゴリアンチョップを受け劣勢状態。必殺のオリンピック予選スラムも不発で、らしさを発揮できずに屈した。会場は三沢さんが亡くなった広島グリーンアリーナから、直線距離で約5キロ。天国の三沢さんにG1初勝利は届けられなかった。試合後は、無言で控室に消えた。

 「新日本のヘビー級の選手を片っ端からぶっつぶす」。打倒新日本を掲げて乗り込んだ。だが、万全ではなかった。ノアの前シリーズ終了後、右ひざに違和感を感じながら練習を続けた。7月31日に医師から右ひざ蜂窩(ほうか)織炎と診断され、1日に入院した。痛みに加え、37度前後の微熱と全身の倦怠(けんたい)感。病院では1日2度の点滴を受けながら絶対安静で過ごした。6日に退院したその足で広島に直行。「今朝は痛みはだいぶ和らいだ」と気丈に話したが、準備不足は否めなかった。

 三沢さんからは入団前、「何も心配しないでこい」と誘われた。新日本との対抗戦の扉を開けた今年の1月4日の東京ドーム大会では、三沢さんからパートナーに指名された。敗れたものの、試合後に控室で「スギ、ありがとな」と言われた。「うれしかった。常に家族のことも心配してくれたし、恩返ししたい」。黒星発進も、不屈の三沢魂は杉浦に受け継がれている。「方舟(はこぶね)のヒットマン」が、このまま終わるわけにはいかない。【塩谷正人】