<プロボクシング:WBC世界ライトフライ級タイトルマッチ12回戦>◇6日◇東京・大田区総合体育館

 日本最速プロ6戦目での世界挑戦となったWBC世界ライトフライ級4位・井上尚弥(20=大橋)が、5度目の防衛を狙う同級王者アドリアン・エルナンデス(28=メキシコ)を相手に、6回2分54秒のTKO勝ちした。

 父真吾トレーナー(42)は、尚弥とともに戦っていた。体を左右に振って、相手のパンチをよけた。母美穂さん(42)と姉晴香さん(22)はリング下で尚弥の無事だけを祈った。攻勢の時はいいが、劣勢になると見ていられない。両手を合わせ、ただ祈った。この日第1試合でプロ2戦目を快勝した弟拓真(18)は尚弥の動きを見つめた。勝利を願いながらも、先輩ボクサーから学ぶ。家族4人はそれぞれ尚弥を支え、助けた。それが世界奪取につながった。

 「めっちゃうれしい。涙ちょちょ切れです」。真っ先にリングに駆け上がり、尚弥を抱きしめた真吾さんは喜びを爆発させた。「家族のために、日々努力してくれた。すごい息子です」とほめた。美穂さんは「5回から動きがおかしくなって、心配でした。でも、本当によかった」と話した。

 尚弥の願いで本格的にボクシングを始める時、真吾さんは悩んだ。経験者だけに怖さも知る。「本当にやらせていいのか」。そんな父を後押ししたのが美穂さんの一言。「本人が頑張るなら、サポートする」。以来、家族での戦いが始まった。父が教え、母がビデオを撮る。夕食の会話はボクシングのこと。晴香さんはスポーツマッサージの資格を取り、拓真はボクサーとして兄と同じ道を歩む。

 試合後、両親と3人の子どもがリングに立った。尚弥の横断幕を手に、5人で記念撮影。誰よりも家族の努力を知る大橋会長が、母や姉を父と息子のもとに上げたのだ。マイクを渡された美穂さんは「ここからがスタート。よろしくお願いします」とあいさつした。尚弥の将来に期待するとともに、家族の夢を言葉に込めた。「井上家の目標は、兄弟での世界チャンピオンです」と美穂さん。尚弥の戴冠は、一家にとっては夢の途中なのだ。【荻島弘一】