ただ1人、2敗の横綱日馬富士(32)は結びの一番で横綱白鵬を寄り切って、4場所ぶり8度目の優勝を飾った。

 負ければ三つどもえの決定戦にもつれ込む。だが、日馬富士の集中力は研ぎ澄まされていた。3敗の稀勢の里、貴ノ岩の勝利を見届けて臨んだ白鵬との結びの一番を勝利で締めくくり「気持ちだけは負けないように。あとは一生懸命、本気で魂を込めて、1番1番。毎日同じ夢を見て、日々努力してきた。こういう結果でうれしい」。大混戦の名古屋に、決着をつけた。

 今場所も右肘痛に悩まされ、得意の右のど輪は2回だけ。3日目には締め付けの強い黒のサポーターをつけて審判部から注意され「自分ではやろうとしても、体が動かない」とぼやいた。代わりに、夏場所は1度もなかった左のど輪を3回繰り出した。立ち合いで左に動いて左上手を取った日もあった。終盤戦はすべて左で攻めて白星を並べた。

 稽古場では、「右足首をケガして以来」約2年半ぶりにぶつかり稽古を再開した。若い衆の頃、元幕下安咲海の野津昭吾さん(40)に毎日15分以上、泣きながらぶつかった。今場所、稽古場を訪れた名古屋在住の野津さんは「どれだけ泣いても向かってくる。すごく負けず嫌いだった」と明かす。日馬富士は「『アゲ胸』っていうのかな。あの人に胸を借りたら、みんな関取になるんだよ」と懐かしんだ。白鵬、稀勢の里を原点回帰で撃破し、主役の座をさらってみせた。

 初日に左肘を負傷して休場した昨年の雪辱を、2年越しで果たした。稽古をつけてきた部屋の関取衆も全員勝ち越して「いい場所になりましたね」。まさに、お手本だった。【桑原亮】