大関稀勢の里(30=田子ノ浦)が横綱日馬富士を力相撲で寄り切って2敗を守った。1場所で3横綱を倒すのは自身初で、3日連続の横綱撃破は今年初場所の琴奨菊以来、昭和以降10人目。大きな白星で逆転優勝に望みをつなげた。1敗だった横綱鶴竜は琴奨菊を退けたが、平幕石浦は勢に黒星。優勝争いは鶴竜が1敗で単独首位に立ち、2敗で日馬富士、稀勢の里、石浦の3人が追いかける。

 まわしには、目もくれなかった。「とにかく前に、前に出る気持ちで」。稀勢の里の強い意志が、日馬富士の出足を上回った。のど輪にも下がらない。左を差し、相手の巻き替えに乗じて左からしぼり上げた。横綱の体を挟み込むように前進。力強い出足は止まらなかった。横綱を圧倒する寄り切り。「自分の相撲を取り切れた。良かったと思います」と冷静に話した。04年九州場所を一緒に新入幕で迎えた日馬富士との対戦は、幕内60回目を迎えた。稽古場で若いころから競い合ってきた2人。「関脇時代よりもっと前からやっていて、横綱はスタミナがありました。1度、三番稽古で40番取ったときがあって、勝ち、負け、勝ち、負けが続いたなぁ」。初対戦は大関が寄り切った。あれから12年。60回目の節目のときも、譲らなかった。

 年間最多勝で並走する日馬富士を直接対決で倒して、3横綱を連破した。昭和以降10人目の快挙。だが「まぁ、いいですね」とだけしか言葉はなかった。理由は1つ。逆転優勝へ望みをつないだとはいえ、追う立場に変わりはないから。

 今年67勝目で年間勝利数では単独首位に立ったが、年6場所制が始まった58年以降、その年に優勝なく年間最多勝に輝いた力士はいない。1年間を通して安定した成績を残しているからこそだが「優勝なしだったら、不名誉な記録ですよね」。自分でも分かっているからこそ、笑みはなかった。残り3日。「集中してやるだけ。1日1日だけを考えて」。その先にある喜びを信じた。【今村健人】